OF戦略切り替えの影響を可視化できたゲーム分析(リーグH試合分析)

トヨタ自動車東日本レガロッソ宮城

2024年10月5日のリーグH トヨタ自動車東日本レガロッソ宮城とジークスター東京の試合をExcelで分析しました。

この試合の勝敗を分ける要素となったのブレイクスルー、ウィング、ディスタンスの決定率の差ジークスターのOF戦略の切り替えGKセーブ率の差が大きかったかな、と思います。
最近分析する試合ではGKの活躍が勝敗を分けるケースが多くあるので、元GKとしては見ていて面白いですね。

今回もデータにしてみると両チームの戦略・傾向の違いがデータに表れており興味深い分析結果になっていました。

詳細について解説していきます。

OF傾向のポイント

以下のグラフはシュート種別ごとのフィールドシュート(FS)本数、得点のデータです。
赤がレガロッソ宮城、青がジークスター東京のデータです。

レーダーチャートの薄い色がシュート本数、濃い色が得点数を表しています。
レガロッソ宮城は特定のシュートシチュエーションに偏らず攻め手のバリエーションが多いことがわかるかと思います。
一方でジークスターはディスタンスの割合が突出して多く、フィニッシュに偏りがあることがわかります。
それぞれのチームのOF特徴について深掘りして両チームの差や勝因・敗因について解説します。

レガロッソは決定率に難あり

レガロッソのOFデータを見ていくと目につくのがシュート決定率の低さです。

ブレイクスルーのシュート決定率

30.0%(3得点/10本)
 →ジークスターは100.0%(5得点/5本)

ウイングのシュート決定率

37.5%(3得点/8本)
 →ジークスターは88.9%(8得点/9本)

9m外からのシュート決定率

12.5%(1得点/8本)
 →ジークスターは36.4%(4得点/11本)

このブレイクスルー、ウィング、9m外からのシュートを合算した決定率は以下の通りとなります。

レガロッソ :7得点/26本
ジークスター:17得点/25本

最終的なスコアが24対37であったことを考えると、このブレイクスルー、ウィング、9m外からのシュートにおける決定率の差が勝敗に大きく影響していることが読み取れるかと思います。

OF傾向から見るジークスター攻略のポイント

この試合のデータを踏まえた上での現実的なジークスター攻略のポイントは、ウィングのシュートをどう減らして、ディスタンスのシュートをどう増やすかという点にあるかと思います。

決定率を見てみると、ディスタンスの決定率が50%(10点/20本)であるのに対し、ウィングの決定率が88.9%(8点/9本)となっています。

「決定率が低く、本数が多いシュート」はDF側からするとどんどん打ってほしいシュートになるので、この試合のデータで判断するのであれば、「どのようにディスタンスを打たせるか」を考えたくなります。

なぜここまでの点差がついたのか

前半20分までのスコアを見ると、10対11の1点差となっており、ゲーム序盤は接戦という展開で推移していました。最終的には13点差まで広がりましたが、この点差がついた要因やきっかけは何だったのでしょうか。
様々な角度からデータを見て、原因を探っていきたいと思います。

ジークスターのOF戦術変更による影響

まずきっかけとなる出来事として、前半15分過ぎにジークスターが両バックプレイヤーをメンバーチェンジしていました(LB:信太選手→アダム選手、RB:中村選手→蔦屋選手)。
このメンバーチェンジをきっかけとしてジークスターOFにどのような変化があったのか、そしてレガロッソにどのように影響したのかについて、解説します。

OF傾向の変化

前半20分までとそれ以降の違いについて、ジークスターのOF傾向を比較してみました。

前半20分まではディスタンスを中心としたOFだったものが、前半20分以降はブレイクスルー、ウィングの割合が増えていることがわかります。
ウィング、ブレイクスルーのシュートについては前半20分以降の決定率が100%となっており、合わせて11点を獲得しています。

両チームの得点内訳の変化

得点についての内訳を見てみましょう。
前半20分までは両チームともセットOF、速攻、PTの得点割合がほぼ同じような割合で遷移しています。前半20分以降のデータを見ると前半20分までと比べ、レガロッソが速攻で得点できていないことがわかります。

速攻が出なくなった要因として、前半20分以降にジークスターの得点率が高くなっていることが挙げられます。
先ほど説明した通り、前半20分以降はジークスターOFが得点率の高いウィング、ピヴォットによるシュートの割合が高くなっており、レガロッソとしてはジークスターの得点率が上がったことで速攻を仕掛ける頻度が低くなっていました。

積極的な立体DFにはスペースを広げるリスクがありますが、メリット、狙いとして速攻への移行の速さがあります。
レガロッソの戦略の軸となる「DFから速攻」といった機会が少なくなってしまっている

速攻本数の減少とは別に前半20分以降のOF傾向としてセットOFの決定率低下も見受けられます。

赤字のデータがレガロッソOF、青字がジークスターOFとなるのですが、レガロッソのセットOF決定率が前半20分までの57.1%から前半20分以降は40.0%となっていることがわかるかと思います。

このセットOFの決定率低下はジークスターGKがブレイクスルーによる得点を再三のファインセーブで阻止したことも影響しています。
GKセーブの差については次の項目で詳細について解説します。

GKセーブ率比較

両チームの時間帯別セーブ率データは以下の画像のようになっています。
(赤がレガロッソ、青がジークスター)

両チームGKのセーブ率をエリア、シュートシチュエーションごとに比較しました。
赤がレガロッソGKのセーブ率、青がジークスターGKのセーブ率になります。

両チームGKの差はブレイクスルー、ウィングのセーブ率に大きく表れています。

ピヴォットのセーブ率についてはレガロッソ宮城のGKが上回っています。
ピヴォットのシュートのセーブ率が36.4%(4セーブ/11本)というのは比較的高いセーブ率といえるかと思いますので、GKの活躍がなければもう少し点差が開いていたかもしれません。

ただ、このデータで注目したいのは、レガロッソDFがピヴォットから11本もシュートを打たれているといったところでしょうか。
レガロッソDFは試合を通じて4:2DFやLB側の牽制を高くした変形5:1DFを敷いて積極的なDF戦略を実践していましたが、その結果としてピヴォットのシュートがジークスターのフィールドシュート全体の21.2%もの割合になっています。
さすがにピヴォットのシュート本数が多くなることはDF戦略の狙い通りということはないかと思いますので、この点は今後のシーズンにおける課題になるかと思われます。