「シュートの質の差が勝敗を分ける」という当たり前のことをデータで解説

試合分析

リーグH 24-25シーズンのブレイヴキングス刈谷vsレッドトルネード佐賀の試合を分析しました。
リーグH開幕後初の試合分析なので、好きなチーム同士の対戦カードを選んでみました。

まずは結論から、ということでこの試合の勝敗を分けた要素は「シュートの質の差」にあったように思われます。色々とデータを検証してみたのですが、両チームの差は結局「シュートの質の差」これに尽きるといった結論になりました。
シュートの質の差が勝敗を分ける、なんて当たり前のことですがこの記事ではその当たり前のことをデータをもとに説明していきます。

試合分析結果

試合を通じて両チームの差として顕著に表れているのはシュート決定率≒GKセーブ率です。
(ブレイヴキングスの決定率が高い≒レッドトルネードのセーブ率が低い)

フィールドシュートの決定率
ブレイヴキングス:69.8%(30/43)
レッドトルネード:45.5%(20/44)

フィールドシュート詳細データ 赤がブレイヴキングス刈谷、青がレッドトルネード佐賀

GKセーブ率(枠内シュートをGKがセーブしたデータ)
ブレイヴキングス: 42.9%(15/35)
レッドトルネード:21.1%(8/38)

GKセーブ率データ 赤がブレイヴキングス刈谷、青がレッドトルネード佐賀

あくまでもこれは客観的なデータの差です。
専属のアナリストの方などはこの結果が出るまでの過程の部分まで分析されているのだと思います。
データ活用としてはその質的分析とチームへの提案が一番重要ではあるのですが、さすがに本業レベルの労力がかかるのでここではデータに差が出ている点の解説に絞って書いていきます。

決定率・セーブ率ともに大きな差がありますが、これはいずれか一方のチームの戦術が良い・悪いといったのではなく両チームの良い点・悪い点が重なっての結果だと思います。
この両チームの差についてフィールドシュートに関するデータとGKセーブ率データに分けて深掘りします。

フィールドシュートに関するデータ

フィールドシュートの得点率について差があるということを冒頭に書きましたが、枠内シュート率についてもレッドトルネードの方が8.9%ほど低くなっています。枠内シュート率にも若干の差がありますが、やはりシュート自体の得点率の差(レッドトルネードの方が24.3%低い)が大きいといったことがわかるかと思います。

レッドトルネード視点で敗因を挙げるとすれば
枠内に打てているシュートを得点に結びつけられていないこと
ブレイヴキングスのシュート決定率が高くなっていること
の2点になると考えられます。

このポイントを踏まえてダッシュボードからより詳細に両チームのOFデータの差を見てみましょう。

ダッシュボード機能で両チームのOFデータを比較

OF種別ごとのデータを比較しているダッシュボードを見ると、特にセットOFにおける得点率の差が大きいことがわかります。
セットOFのOF機会の内訳においてOF機会の総数、被ブロック、OFミス/ファウル数に大きな差はないので、得点率の差はフィールドシュートで生じていることがわかります。
ここからはフィールドシュートの枠内シュート決定率にフォーカスしてより詳細なデータを見てきます。

両チームのセットOFの枠内シュートに絞ってデータを抽出

このセットOFのエリア別のシュート/得点分布を示したデータ(枠内シュートに限定して抽出)からレッドトルネードのセットOFにおいて、9m外からのシュートで全く得点できていないこと、9m内のクロスシュートについては45°の角度になると決定率が下がっているといったことがわかります。
この2つのポイントについてシュートエリア×シュートシチュエーションのデータから深掘りしてみましょう。

レッドトルネード佐賀のセットOFかつ枠内シュートに絞って抽出したデータ

このデータを見ると、セットOFにおいて9m内のクロスシュートで45°の角度からのシュートによる得点率が低くなっているのはブレイクスルーの得点率が低くなっているため、ということがわかります。

続いて、ブレイヴキングスの得点率が高くなっている要因についてデータを見ていきます。

レッドトルネードと比較して得点率の高い点として、9m内のクロスシュートのうち45°の角度からのシュート確率が高くなっている点が特徴として挙げられるかと思います。

シュート種別を見てみると、ブレイヴキングスはブレイクスルーをしっかり決めているところが差として表れています。

また、9m外のディスタンスシュートについてもセットOFで獲得した点数としてはレッドトルネードよりも5点多くなっていますが、これはレッドトルネードがディスタンスを完封されたことにより生じた差になります。
得点率といった観点でデータを見るとセットOFのディスタンスシュートは41.7%(5得点/12本)と決して高くはないことがわかります。

GKセーブ率データ

両チームの試合を通じたセーブ率には大きな差がありますが、この点について深掘りしていきたいと思います。

ブレイヴキングス
チーム全体としては、9m外からのシュートをほぼシャットアウトしていたのが素晴らしいポイントでした。9m外からのシュートは計9本あったのですが、得点を許したのは三重選手に打たれたディスタンスシュート1本のみでそれ以外はすべて阻止しています。

ブレイヴキングスの特徴的なデータとして、この試合では加藤選手がよく当たっていました。
加藤選手個人で見ると全体のセーブ率は48.3%となっており、特筆すべきはブレイクスルーを87.5%(7セーブ/8本)と高確率で阻止していた点です。
レッドトルネードもブレイクスルーの本数がシュートチャンスを多く作れていたのですが、ことごとく加藤選手にセーブされてしまっていました。
一方で、ウィングのシュートは枠内に打たれたシュートがすべて得点されている(0セーブ/6本ので、ブレイヴキングスGKとしてはウィングのシュートに対するセービングに課題が残る結果になりました。

エリア別の得点分布。クイックスタートの集計は未作成です、、、

レッドトルネード
この試合では今年から新加入した木村選手の出場時間が多くなっていましたが、木村選手個人のセーブ率は18.2%と、本来の実力とは言い難いデータになっています。

この差について両チームのシュートシチュエーションに違い、例えばブレイヴキングスの方がより決定率の高くなるシチュエーションでシュートを打っている、といったことがあるかと思いディスタンスシュートとクロスシュートの割合の違いなどを確認してみたのですが、大きなデータの差はありませんでした。
冒頭でこの試合の勝敗を分けたのはシュートの質である、とした通り「打ったシュートを得点につなげられているか」といったフィールドシュートの決定率といったポイントに違いがありそうです。
データ上差分を追っていくと勝因・敗因分析が結論としてはになりますが、この「シュートの質」に至るまでの要因としてデータには表れないようなシューターへの接触強度やブレイヴキングスによるGK攻略などといったところに差があったのかもしれません。

レッドトルネードの反省点

この試合におけるレッドトルネードの課題として、ブレイヴキングスの決定率が高くなっていることに対するDF面での課題、レッドトルネードのシュート決定率が低くなっていることに対してOF面での課題があります。

DF面での課題

DF面では相手のシュート決定率を下げられるような守り方が必要になるでしょう。
同じようなシュート本数を打てているにもかかわらず、得点率に大きな差が出てしまっている理由、DFとしてブレイヴキングスにできていて、レッドトルネードにはできていないことがあるかもしれません。具体的にはシューターにプレッシャーをかける、シュートを打たれるシチュエーションを決定率の低いエリアやシチュエーションに誘導するといったことが考えられます。
このあたりはこの分析ツールで集計している数値からは読み取れないので、両チームの質的分析をして差を明らかにしていく必要があります。

OF面での課題

OF面ではまずDFを崩せているブレイクスルーでの決定率が課題として挙げられます。
特にこの試合のデータでは枠内には打てているものの加藤選手にセーブされていたので、GK対策を行い加藤選手を攻略することが必要になるでしょう。
45°の角度がついたアウトよりのブレイクスルーについては決定率が著しく低くなっているので、該当のシーンを切り出してシュート動画の振り返りをすることでより具体的な課題が明らかになるかもしれません。

ブレイクスルーの得点差だけでは逆転できないので、全体のシュート決定率をより高くできるようなOF戦術も必要となります。
特に得点率の低かったディスタンスシュートについては、9m外からの決定率を上げる工夫、またはDFを崩して9m内に侵入してシュートを打てるような戦術といった様々なアプローチでの改善が必要になるでしょう。このアプローチ方法については、選手の特性やOF全体の戦略を踏まえて検討する必要があります。
OF戦術全体の視点ではこの試合で「ディスタンスが入らずウイングシュートが高確率で得点につながっている」といったデータがあるので、ブレイブキングスDF&GKへの対策としてディスタンスシュートでフィニッシュとなるOFではなく、ウィングの位置でフィニッシュとなるOFの割合を増やしていく、といった戦術も考えられます。

ブレイヴキングスの反省点

ブレイヴキングスとしては昨シーズンリーグ4位のレッドトルネードに対してを12点差をつけての勝利とできたので、ほぼプラン通りにゲーム展開できたのではないでしょうか。
強いて課題点を挙げるとすれば、試合後半のボールロスト数でしょうか。

時間帯別のボールロスト数に関するデータからもブレイヴキングスは後半にボールロスト数が多くなっていることがわかります。(ボールロスト13本中8本が試合の後半に記録されている)これは点差がついた後の交代メンバーによるミスが多くなっているものと推測されます。

スターティングメンバーのゲーム運びについては申し分のないものであったかと思いますが、選手交代後のOFクオリティには課題が残ります。
長いシーズンの中でスターティングメンバーの好不調の波もあり、他チームから対策されることも考えられます。スターティングメンバーとリザーブ選手のプレーのクオリティの差を縮めることが長いシーズンで勝ち続け、悲願のプレーオフ制覇につながるはずです。
(ブルーファルコンは途中出場のリザーブ選手が凄まじい活躍をしますしね。)

この点についてもまだまだリーグ序盤ですし、今後試合数を重ねていく中で改善されていくものと思います。

余談:やはり試合を見た印象とデータは違うよね、という話

データを取りながら動画を見た際の印象では、特に前半にレッドトルネードのボールロスト数が多くなっていたので、試合を見た印象のみでデータを見る前は「ボールロスト数の差が勝敗に影響していたかな」と思ったのですが、最終的なボールロスト数はブレイヴキングスが13、レッドトルネードが14とほとんど差がありませんでした

さらにボールロスト直後の失点を見てみるとはブレイヴキングスが5、レッドトルネードが6とボールロストに伴う失点数といった面でも大きな差がないことが分かります。

ボールロストが勝敗に影響した要素として考えられるのは、レッドトルネードとしては試合序盤にミスが多かったためブレイヴキングスに試合の主導権を握られた、という点でしょうか。
(前半20分までのミス数を比較するとブレイヴキングス4回、レッドトルネード8回)