ブレイヴキングスとジークスターの差はどこにあるのか

トヨタ車体ブレイヴキングス

プレーオフ2ndステージのブレイヴキングス 対 ジークスターの試合結果から両チームの差がどこにあるのか、何が勝敗を分けているのかを分析していきます。

試合結果としては35-27と8点差をつけてブレイヴキングスが勝利しています。リーグ最終週の試合から引き続き、大差をつけてブレイヴキングスが勝利しました。23-24シーズンの両チームの対戦では、特にシーズン終盤にかけて点差をつけてブレイヴキングスが勝利していることがわかります。

たしかにブレイヴキングスは2012年から10年以上もの間、絶えずJHLのベスト4以内に君臨している強豪です。しかし一方のジークスターも歴史が浅いチームとはいえ各チームのエース級の選手、経験豊富なベテランが移籍したことに加え注目のルーキーも次々と所属している、まぎれもなくJHL屈指の強豪チームです。

この2位のと3位のチームの間にはどのような差があるでしょうか?
結論として、ブレイヴキングスの方がチームとして再現性が高いOFをしている所に差があるな、と感じました。安定したOFをベースにRW櫻井選手、LB吉野選手の活躍、さらにGK加藤選手のビッグセーブが上乗せされて、点差をつけての勝利へと繋がっているという印象でした。
ブレイヴキングスのハンドボールの特徴はミスが少なく、高いクオリティのOF・DFを繰り返し実行できるところにあります。ジークスターも時間帯によっては流れを掴んで猛追するのですが、個の力という要素があるのは否めずどうしても浮き沈みがあります。ブレイヴキングスは焦らず着実に得点を重ね、OF回数が増えれば増えるほど差がついていくといった印象でした。

OFデータ全般の解説

両チームの「シュート本数」に注目すると差があまり見られませんでした。
むしろPT獲得数はジークスターの方が多く、ジークスターの方が有利といえることがわかります。

総シュート数比較
ジークスター:51本
ブレイヴキングス:54本
総シュート数…PT、エンプティ、フィールドシュートを合わせたシュート本数

総シュート本数については両チームに大きな差はなくジークスターもシュートを打つところまでは持ち込めていることがわかります。

PT獲得数比較
ジークスター:5本
ブレイヴキングス:1本

PTは当然フィールドシュートよりも得点率が高く、この試合ではジークスターの総シュートに占めるPTの割合が多く、ジークスターにとって有利に働くポイントでした

フィールドシュート決定率の差

「フィールドシュートの本数に差がないのに点差がついている」ということであれば、フィールドシュート決定率に差があるということが考えられます。

フィールドシュートの決定率とは打ったフィールドシュートがどれだけ得点に結びつけられたかのデータです。

フィールドシュート決定率の差
ジークスター:50.0%(23得点/46本)
ブレイヴキングス:63.5%(33得点/52本)

ブレイヴキングスの方が10点多くフィールドシュートで得点していることがわかります。
しかし、ここで注意が必要なのはPT・エンプティシュートはフィールドシュートにカウントされないことです。データを読み違えないためにはPTなどフィールドシュート外のシュート数・得点数を加味したOF機会全体のデータを比較する必要があります。

フィールドシュート以外のOF機会(PT・エンプティシュート)はジークスターの方が3本多くなっており、これを差し引いてもフィールドシュートの得点数で7点の差をつけています。

最終スコアの点差が8点差であることからも、フィールドシュートの決定率の差が勝敗を分ける要因の一つであったと推測することができます。

シュート本数に差があるのか、決定率に差があるのかというデータの仕分けは非常に重要なポイントです。
シュート本数に差がある場合には、シュートまで持ち込めていないことになりますので、そもそもOF戦術全般に問題がある可能性が考えられます。
シュート本数が同数程度ということであれば決定率の差から両チームの違いを見極め、シュートが入らないことへの対策※を考える必要があります。
※相手GKへの対策、フィールドシュートの決定率が低い要因がどこにあるのか(決定率の低いシュートエリア・シーンで打たされていないか、被ブロック数や枠外シュートが多くないか など)を考えることになります。

フィールドシュート決定率に影響を及ぼした要因の解説

ここまでの分析でフィールドゴール決定率の差が勝敗を分けた要因の一つと思われる、ということを解説しました。

ここからは試合の中のどういった要素がフィールドシュート決定率の差を生じさせたのかについてデータを深掘りして解説していきます。

結論としては以下の3つの要因において勝敗を分ける差が生じていることがわかりました。
9m外からのシュート決定率
GKセーブ率
両チームのLB(エース)の決定率
それぞれについて詳しく説明します。

要因①9m外からのシュート決定率

両チームのは以下の9m外からのシュートの得点率データを見ると、ディスタンスシュートの精度に差があることが分かります。
ジークスター:33.3%(5得点/15本)
ブレイヴキングス:50.0%(8得点/16本)
9m外の各チームの選手別得点状況は以下の通りになっています。

ブレイヴキングスの個人別ディスタンスシュート決定率
ジークスターの個人別ディスタンスシュート決定率

要因②GKセーブ率

この試合ではブレイヴキングスのGK加藤選手が大当たりしており、両チームのセーブ率に10%以上の差が出ていました。

GKセーブ率の比較
ジークスター:29.8%
ブレイヴキングス:41.0%

GKのセーブ率で10%の差があると、セーブ率で劣るチームは4~5点差くらいのビハインドがあると考えてよいかと思います。
GKのセーブ率だけで試合が決まるということはありませんが、それだけの影響力があるということ、セーブ率で劣るチームはその分のビハインドを覆す戦術を考えておかなくてはいけないということは間違いありません。

GKセーブ率の得点換算の考え方について
フィールドシュートによる枠内シュート数は1試合でおおよそ40本~50本程度になることが多いです。
両チームとも同数程度の枠内シュートを打つと想定して、GKのセーブ率で10%の差があるとGKセーブ率の低い方のチームは4~5点分の得点機会を失っていることになります。(GKセーブ率の計算対象は枠内シュートのみ)

要因③両チームのLB(エース)の決定率

フィールドシュートの決定率を個人別に比較していくと、両チームのエースであるアダム選手と吉野選手のデータに差があることがわかりました。

フィールドシュート得点率の比較
アダム選手 14.3%(1得点/7本)
吉野選手 71.4%(5得点/7本)

アダム選手のフィールドシュート7本のうち5本がディスタンスシュートとなっていますが、ディスタンスシュートでは得点することができませんでした。(1得点はブレイクスルーによる得点)
一方、吉野選手の放ったフィールドシュートはすべてディスタンスシュートとなっており、71.4%という高い確率で得点しています。

「あと数cm」の差

ブレイヴキングスGK加藤選手のファインセーブによるところが大きいですが、ジークスターとしてはアダム選手のディスタンスシュートによる得点がなかったというのは痛手だったかと思います。

特に重要なシーンとしては試合序盤の5対2とブレイヴキングスがリードしている展開でのアダム選手のディスタンスシュートでした。2本連続でGKをかわせたもののゴールポストに嫌われ、わずか数cmの差で得点とすることができませんでした。ここで2得点、1点差と詰め寄ればまた違う展開だったかもしれません。

データに表れる吉野選手の凄さ

吉野選手のフィールドシュートによる得点がすべてディスタンスシュートになっている点について、これは決してジークスターがディスタンスシュートに対して対策をしていなかったという訳ではありません。

ジークスターのDFデータを見るとディスタンスシュート3本をブロックし、ブレイヴキングス全体のディスタンスシュートの決定率としても、9得点/17本(45.0%)と決して高い決定率ではないことがわかります。
しかし以下のディスタンスシュートの個人別データを見ても分かる通り、吉野選手は得点数が多いだけではなく決定率も高くなっています。
日本代表のエースでもある吉野選手の凄さがデータに表れていますね。

ブレイヴキングスのディスタンスシュート個人別データ
吉野選手 5得点/7本 71.4%
渡部選手 1得点/6本 16.7%
櫻井選手 2得点/2本 100.0%
富永選手 0得点/2本 0.0%
高智選手 0得点/1本 0.0%
北詰選手 1得点/1本 100.0%
津屋選手 0得点/1本 0.0%

両エースの詳細データ比較

アダム選手と吉野選手の個人別詳細データのスタッツは以下の通りです。

ジークスター アダム選手の個人分析
ブレイヴキングス 吉野選手の個人分析

参考データ:6m-9m間のラインプレーの得点率

6m-9mのラインプレーの決定率にはあまり差が見られませんでしたが、その分布から戦術の違いが見えてくる面白いデータだったので、紹介しておきます。

6m-9m間のラインプレーによる決定率の比較
ジークスター:58.1%(18得点/31本)+PT獲得数5
ブレイヴキングス:69.4%(25得点/36本)+PT獲得数1
※クイックスタートは集計に含まれていません

得点率に11.3%、得点数で7点の差がついていますが、PT獲得数を踏まえるとラインプレーでの得点機会の差は実質3本程度となります。
この差ではラインプレーの決定率で勝敗が分かれた、という訳ではないことがわかります。

このデータの面白いところはデータをシュート種別に仕分けると両チームの戦略の違いが見えてくるというところです。
データを仕分けた結果が、以下の通りです。

■ジークスター
ブレイクスルー:9得点/12本(+PT獲得数3)
ディスタンス:5得点/8本
ピヴォット:0得点/1本(+PT獲得数2)
ウイング:2得点/8本
その他(リバウンドなど)1得点/1本
1次速攻(ワンマン速攻):1得点/1本

■ブレイヴキングス
ブレイクスルー:8得点/9本(+PT獲得数1)
ディスタンス:1得点/4本
ピヴォット:7得点/9本
ウイング:7得点/8本
その他(リバウンドなど)0得点/1本
1次速攻(ワンマン速攻):2得点/5本

以上のデータからジークスターはラインプレーの選択肢としてブレイクスルーを狙うシーンが多くブレイヴキングスはピヴォットのシュート数が多くなっていることがわかります。
加えてウイングの決定率でも明暗が分かれている点も両チームの差として見えてきます。

参考データ:試合展開から見るブレイヴキングスのキープレイヤー

勝敗を決定づけた要因とはまた異なりますが、面白いデータを見つけたので載せておきます。

RB・RWのサウスポーコンビ

RB 渡部選手とRW 櫻井選手による得点が13点と、2人でチーム全体の4割近い得点となっていました。
得点数以上に厄介に感じたのが得点する時間帯です。

1人のプレイヤーでは通常、1試合の中でも得点する時間帯と得点が止まる時間帯があります。
しかしこの2人はお互いがフォローしあうように、どちらかの得点が止まればもう片方が得点し、2人で試合を通じてどの時間帯でも点を取り続けています。

特に櫻井選手はこの試合で8得点/8本と100%の決定率となっており、プレーオフという大舞台で気を吐いていました。

3連続得点の仕事人

この試合では試合開始直後のシーンと、9対9の同点に追いつかれたシーンでブレイヴキングスが3連続得点によりジークスターを突き放し、試合の主導権を握るきっかけとなっていました。

実はこの2回の3連続得点はいずれもLB 吉野選手、RB 渡部選手、PV 岡元選手が1点ずつ得点して3連続得点としていました。偶然かもしれませんが、ここぞという場面でしっかりと得点を取る選手がいると心強いですね。

スタッツ