2024/5/6に実施されたジークスター東京vsブレイヴキングス刈谷の試合を分析しました。
前節が27-27の同点であったのに引き続き、今回も28-28のドローと実力の拮抗した2チームの試合は非常に緊張感のある展開で見応えがありました。
目まぐるしい試合展開で対策の対策の対策、、、といったトップリーグらしい戦術の幅が見られ、見ていた非常に楽しかったですね。
試合序盤の展開解説

ブレイヴキングスの強みとは北詰選手のゲームメイクを中心としたセットOFの得点率の高さと、アグレッシブで堅実なDFによりセットDFでの失点を抑えることを高いレベルで両立させていることだと思っています。
特にDFではその強いフィジカルと機動力を活かして積極的に接触していくことにより相手チームのセットOFを自由に展開させない場面が多く見られます。このDFの特徴はDFの獲得フリースロー数にも表れており、ブレイヴキングスはほとんどの試合で相手チームよりも多くのフリースローを獲得しています。
つまり、ブレイヴキングスのセオリーとしてはセットOF・DFの優位性を保つことで、試合展開においてセットOFの割合が増えるほどにブレイヴキングスのペースでゲームを展開できるといった特徴があります。
ところが、この試合のポイントの一つである序盤の攻防ではブレイヴキングスのセットOFが精彩を欠き、DF面では速攻を受けて失点を重ねてしまうというブレイヴキングスのセオリーを逆行するような展開になり、前半15分までに最大9点差をつけられてしまいました。
ブレイヴキングスが試合をコントロールし始めたのが、前半15分過ぎに7人攻撃を導入してからでした。
それ以前の前半15分までのデータを見てみると、ジークスターの得点12点のうち50%にあたる6点が速攻またはリスタートによるものとなっています。
これはブレイヴキングスのOFが得点で終わっていないことはもちろん、シュートで終えられていない、またはGKにコントロールされるようなシュートで終わっていることを示しています。
前半15分までのブレイヴキングスのセットOFの得点率データが3得点/11回の27.3%と低い水準となっていることからも、序盤の展開がブレイヴキングスのセオリーとは大きく異なるものだったと推測することができます。
この原因について、試合を見ていた印象としてはジークスターの立体DFに阻まれてシュートまで行けないシーンが多かったように感じていたのですが、データを見るとその通りではないことがわかります。
前半15分までのデータで枠内にシュートを打てているOF機会をカウントすると、ジークスターが11本、ブレイヴキングスが8本と9点差がついている割には枠内シュート本数にあまり差がないことがわかります。
さらにボールロスト数についてもジークスターが1回、ブレイヴキングスが3回と、点差をつけられる大きな要因とするまでのデータではありません。
この時間帯の両者の最も大きなデータの差はこの時間帯の枠内に打ったフィールドシュートの決定率です。

前半15分までの間にジークスターが放ったフィールドシュートは11本であり、すべてが枠内シュート、そして驚いたことに枠内に放った11本のシュートすべてが得点となっています。
一方で前半15分までの間にブレイヴキングスが放ったフィールドシュートは9本、うち8本が枠内となっており、そのうち得点となったのは3本でした。
両チームのOF種別・エリア別・シュート種別ごとに細かく集計したデータは以下の通りです。


シュート種別といった視点で両チームの違いを見てみると、ジークスターは11本の枠内シュートのうち5本がピヴォット、2本がターンオーバーによるGKとの1対1のシュートとなっており、決定率の高くなるシュート種別の割合が半数以上となっていることがわかります。
一方のブレイヴキングスはセットOFのディスタンスが4本と約半数を占めており、岩下選手の好セーブにより阻まれるシーンが多くなりました。
両チームの放つシュートの質は大きく異なっており、この差は単純にGKのセーブ率の差というものではなく、GKを含めたDFの差が表れたといえます。
準備の重要性
ジークスターの3:2:1DFに苦しめられたブレイヴキングスはメンバーチェンジや前半早々に2回のタイムアウト請求など、まさにありとあらゆる方法で攻略を試みました。最終的には7人攻撃により「ジークスターの3:2:1DFを攻略する」のではなく「ジークスターに3:2:1DFをさせない」ことを選択します。
このOF戦術の切り替えが功を奏してじわじわと点差を詰めて4点差で折り返しました。
観戦時には苦し紛れに7人攻撃を選択したのかと思ったのですが、この7人攻撃が非常に精度の高いものでした。
9回の7人攻撃で1回のボールロストなのでボールロスト率11.1%となっており、これは7人攻撃以外のOF機会のボールロスト率21.7%を大きく下回っています。
ただ、パーセンテージで比較するにはサンプルの数が少ないので、このデータからは「7人攻撃の方がボールロスト率が著しく低い」というよりも「ミス率の低さからしっかり準備されていた戦術であることが分かる」というデータかと思います。
7人攻撃は前半20分過ぎのOFから導入されていました。
点差をつけられてからこの戦術決定に至るまでの時間は10分~15分程度であり、この間のブレイヴキングスの目まぐるしいベンチワークを見ると、どのような試合展開の想定をして、それぞれに対してどれだけの準備をしてきたのか、このあたりはさすがプロの試合、といった印象を受けました。
立体DFの応酬と采配の違い
今回もブレイヴキングスの鬼門となったジークスターの立体DF
前節でもジークスターの立体DFに苦しめられたブレイヴキングスでしたが、今回も攻めきれず、序盤はなかなか得点できない時間帯が長くなりました。
ジークスターのDFシステム別にブレイヴキングスOFの得点率を見ると以下の通りになっており、ジークスターが立体DFを敷いた際には明らかに得点率が低くなっていることがわかります。
ブレイヴキングス セットOFの得点率
3:2:1DFに対しての得点率38.7%
0:6DFに対しての得点率62.5%
明らかに3:2:1DFに対してセットOFがセオリー通りに得点につなげられなかったことをデータが表していますね。
これに対して、ジークスターのセットOFの得点率データは対照的なものとなっていました。
ジークスター セットOFの得点率
立体DFに対しての得点率35.3%
0:6DFに対しての得点率37.5%
ジークスターのデータの特徴はブレイヴキングスのDFシステムに関わらず、セットOFの得点率は決して高くないということにあります。
速攻やリスタートの得点率は高く、走ってゲームのペースを握っていくチームであるということが分かります。
この試合では前半にゲームの流れを変えるためにブレイヴキングスが7人攻撃を導入し、後半には同じような展開でなかなか得点できなずにいたジークスターが7人攻撃を導入していました。
双方が立体DFへの対応として数的有利な状況を作ることでトップDFを下げさせ0:6DFへ移行させるために7人攻撃の戦術を選択していましたが、その過程には大きな差があります。
この両チームの違いについて深掘りします。
ブレイヴキングスは前半、3:2:1DFに対する得点率が下がったことにより、DFからの速攻というジークスターの得意とする展開に持ち込まれていました。
それに対して、最終的には7人攻撃を選択することで得点率低下の要因である3:2:1DFをさせないことで、本来のセットOFの得点率の高さという強みを発揮し、徐々に点差を詰めていくことに成功しました。
これに対してジークスターの対応について見てみると、ジークスターOFが5:1DFに対してなかなか得点することができず、7人攻撃を選択するまでの間、この前半25分すぎ~後半5分頃の時間帯はブレイヴキングスが連続得点をしていた時間帯と重なっています。
ブレイヴキングスのOFが得点で終わってしまうので、ジークスターの強みでありこの試合での得点源となっていた速攻の展開に持ち込むことができず、セットOFの割合が高い時間帯となっていました。
この時間帯のジークスターOFの不調は5:1DFに対して起きたことではなく、試合を通じて見られているジークスターの「セットOFの決定率が低い」という弱みがこの時間帯に集中して見られたということになります。
ジークスターはその打ち手として7人攻撃をすることによりブレイヴキングスのトップを下げ、0:6DFへ移行させるといった対応をしました。
しかし、0:6DFへ移行させることに成功しても、7人攻撃というオプションではあるもの、セットOFの得点率へのアプローチといった点では有効な手とは言い難いように感じられました。
この点会では、本来のジークスターの強みであるスピード勝負に持ち込めるよう、連続得点を許しているDF面を改善することで速攻による得点機会を増やしていくことが重要だったのかもしれません。
同じような展開で同じような采配であっても、データを見るとその意味や効率にも違いが見られて、こういったところがデータを通じてハンドボールを見た時の面白さだと思っています。
GKのデータ

セーブ率データを見るとブレイヴキングスの方が高いというのがデータ入力しながら観戦していた時の印象とは異なる意外な結果でした。
印象では岩下選手の方がセーブ率が高いように感じていたのですが、1対1を止めるときのセービングがダイナミックなのでそのようなイメージになっているのかもしれません。
加藤選手はハムザ選手のアンダーハンドのディスタンスになかなか対応できずにもったいないシーンも見られましたが、外に流れたブレイクスルーなど、角度の狭いシュートを堅実にセーブしていました。
時間帯別のセーブ率の推移を見てみると、ジークスターGKは試合序盤に60%台という非常に高い累積セーブ率を誇りますが、徐々にセーブ率が下がる傾向が見られます。岩下選手は試合を通じて好セーブが多かった印象だったので累積セーブ率の推移が試合展開とともに下がっていく傾向にあるというのは意外でした。
ブレイヴキングスGKは先発の岡本選手が試合序盤にPTやターンオーバーのワンマン速攻といった決定率の高いシュートへのセーブシーンが多かったため序盤のセーブ率が低くなっています。
これに対してGKの選手交代やOFの改善によりターンオーバーを受けるシーンが減ったなどといった要因もあり、ブレイヴキングスGKの累積セーブ率は徐々に上がっていくようなデータになっていることがわかります。

シュート種別のセーブ率データをもとに両チームのGKを比較すると、ジークスターのGKはディスタンスの阻止率が高く、ブレイヴキングスのGKはブレイクスルーやウィングのシュートの阻止率が高いといった特徴があるようです。
フィールドシュートの種別比較
両チームのフィールドシュートの種別ごとの決定率を比較すると、OF戦術の違いが合わられており、興味深いデータになっています。

その他データ集
