BK刈谷vsジーク東京戦分析:DFシステムが勝敗に与える影響、GK活躍の質の違い

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ここまでの全試合を見ているわけではないのですが、個人的に今シーズンベストゲームでした。
分析しながら見てほんとに面白かったです。

この試合で見る限りでは地力においてブレイヴキングスの方がやや上に感じましたが、これまでに伊禮選手や中村翼選手といった若手選手を積極起用してきたジークスターのチームとしての総合力が徐々に高まっていることを感じました。

前置きはここまでとして、引き分けとなったこの試合について勝敗に関わるようなデータの面から見ていきたいと思います。

ジークスターに勝ち点1をもたらしたのはDFシステム

5:1DFじゃなければジークスターは負けていた

勝敗に影響する要因というのは単純ではなく、様々な要素が組み合わさり勝因・敗因となります。
その中で、データの面からジークスターがこの試合を引き分けに持ち込めた要因の一つはブレイヴキングスに対して5:1のDFシステムが効果的だったことです。

ジークスターDFが5:1のパターン、5:1DFではないパターンそれぞれのブレイヴキングスのセットOFのデータの決定率を比較することで、5:1DFの効果検証をしてみると、以下のデータの通りになります。

ジークスターDFが5:1DF以外のときのブレイブキングスのOFデータ
ジークスターDFが5:1DFのときのブレイブキングスのOFデータ

それぞれのブレイヴキングスの得点率を見ると5:1DF以外の際は57.9%、5:1DFの際は25.9%と5:1DFに対する得点率が低くなっていることから5:1DFが効果的であり、勝敗に大きく影響していることがわかります。
※5:1DFのフラグを付けているのはセットOFのみとなるため、セットOFを対象としたデータになります。

ジークスターは前半20分過ぎ、8-12とブレイヴキングスに4点リードされている状況でDFシステムを5:1に変更し、0:6のシステムと織り交ぜながら試合を通じて5:1DFを展開していました。
データでは42.9%(63プレーに対して27回)の割合で5:1DFを採用しています。
仮にすべての時間帯で0:6DFを敷いていたら、大差で配線していた可能性が高いです。

それぞれのDFシステムに対するより詳細なデータを見ていきましょう。
シュートエリア分布を見てみると、以下の通りとなっています。
5:1のDFシステムに対して9m内に入られて打たれたシュートの得点率が低くなっていることがわかります。

エリア・シュート種別のデータまで深掘りして比較すると、得点率に最も影響している点としては5:1DFの方がLW側の角度の広いサイドシュートによる失点が少なくなっていることが挙げられます。
続いてディスタンス・ブレイクスルーの決定率も低くなっており、これは5:1DF以外のシステムでの守備と比べてシュートに対して接触の強度が高くなっていると推測することができます。

トップDFの違いがどうデータに表れるか

ジークスターの5:1DFはトップDFがアダム選手のパターンとハムザ選手のパターンがあるようです。
このトップDFの違いがどのようにデータに表れるのかについても見ていきましょう。

はじめはアダム選手がトップDFを務めていましたが、後半に入ってからは途中からハムザ選手がトップDFとなり、以降はずっとハムザ選手がトップの位置を守りました。

このトップDFによってどれくらいDFの成功率が異なるのかについて、アダム選手がトップDFとなったシーンが6回となるためサンプルが少なく参考程度になりますが、以下の通りハムザ選手がトップの位置を守るパターンの方が、ブレイブキングスの得点率が低くなっていることがわかります。

トップDFがアダム選手の場合のブレイヴキングス刈谷のOFデータ
トップDFがハムザ選手の場合のブレイヴキングス刈谷のOFデータ

ハムザ選手がトップDFのパターンの5:1DFの大きな特徴はブレイヴキングスのOFミスが多くなっていることです。
試合全体のデータから見るとハムザ選手がトップDFを務めたDF回数はブレイヴキングスのOF回数全体の35%程度ですが、ブレイヴキングスのOFミス数は7回となっており、これはブレイヴキングスのOFミス数全体(13回)の53.8%となっています。

これは全体の3分の1程度のOF機会において、試合全体の2分の1以上のOFミスが集中していることから、ハムザ選手がトップDFを務める5:1DFは相手OFのミスを誘うようなDFシステムとなっているといえます。
さらにこのブレイヴキングスの8回のOFミス直後の速攻で6得点につなげており、非常に試合への貢献度の高いDFであることもわかります。

GKが活躍するゲームは面白い

試合を通じて見どころとなっていたのは、両チームGKの活躍ですね。
これは主観ですがGKが活躍する試合というのは展開に締まりがあり好ゲームになるな、と思います。

両チームのGKともに異なるアプローチでチームに貢献しており、それぞれの違いについても解説していきたいと思います。

以下がGKのセーブ率、阻止率に関するデータになります。(赤がブレイヴキングス、青がジークスターのデータ)
ここで集計しているデータはフィールドシュートのみを対象としており、PTのセービングやエンプティの結果は含まれていません。

「勝敗に影響するセービング」の質の違い

この試合は両チームのGKがそれぞれの特徴を発揮することでとても見応えのあるゲームとなっていました。
GKとして勝敗に影響するプレーについては、キーパー単体の活躍だけではなくセービングから速攻での得点につなげてゲームの流れを引き寄せるプレーなど、数値だけでは測れない活躍もあるので、集計したデータだけを見てどちらが優れたプレーをしてたかを比較することは非常に難しいです。

その中でもデータで可視化されている差として、セーブ率・阻止率のデータを見ると、フィールドシュートのセービングの安定といった点については、ブレイヴキングスの方が上回っていおり、セーブ本数では2本、阻止数では5本多くなっています。

セーブ率・阻止率ではPTのセービングを集計外としているのですが、ブレイヴキングスのPTセーブ数は0本であるのに対し、岩下選手はPT4本中3本をセーブしており、3点差分の活躍をしています。

このほかに両チームのGKとも同点に追いつかれるシーンや、速攻につなげて試合の流れを引き寄せるセービングなど、数字で表すことの難しい形でそれぞれのチームに貢献していました。

ジークスターは勝負所でアダム選手のディスタンスをフィニッシュとして選択するシーンが多くありましたが、岡本選手がアダム選手のディスタンスシュート6本中2失点に抑え簡単には得点させませんでした。
最後の27点目はDFのワンタッチがありアンラッキーな形で得点されてしまったものの、要所要所でアダム選手のディスタンスを抑えていなかったら、試合の流れはジークスターに持っていかれていたと思います。

対エースのセービングという意味では、岩下選手もブレイヴキングスの吉野選手に対するシュート阻止率55.6%、ゴール到達したディスタンスに限定するとセーブ率75%(4本中3セーブ)と日本を代表するバックプレイヤーである吉野選手を抑えており、こういったデータからGKの活躍によりゲームのバランスが保たれていたことがわかります。

その他、それぞれのチームのGKに関する詳細なデータは以下の通りです。

ボールロストは勝敗に影響する

他の記事でも何度も取り上げていますが、ボールロストは勝敗に影響するんです(大事なことなので何回でも書きます)。
ボールロストとはOFミス・ファウルによりOF権を失うプレーのことを指します。

OFのボールロスト数を減らすことはハンドボールの勝率を上げるためのシンプルなテーマだと考えています。
その重要さが伝わるようにこの試合のボールロストが試合の勝敗に影響していることがわかるデータについて解説します。

以下のデータについて、上段が得点に関するデータとなっており、右側のグラフは時間帯別得点・累計得点を表しています。
下段はボールロストに関するデータとなっており、右側のグラフは時間帯別ボールロスト数を表しています。

紫の枠で囲んでいる「ブレイヴキングスのボールロスト数が多くジークスターのボールロスト数が少ない時間帯」において上段の得点データの累積得点数を見ると点差が縮まり、後半にはこの時間帯に逆転されています。この試合は序盤からブレイヴキングスがリードする展開となっていましたが、ブレイヴキングスのOFミスが多くなっている時間帯にリードが縮まり、逆転されていることがわかるかと思います。

ボールロスト数全体を見ても、ブレイヴキングスの方が3本多くなっています。
ボールロストが試合の勝敗にどのような影響を与えるのかを考えるとき、試合全体のボールロスト数だけに注目するのではなく、ボールロストによりOF権が切り替わった直後のOF結果に関するデータも重要になります。
相手がOFミスをした=相手チームが得点できなかったプレーであり、かつボールロスト後は得点率の高い速攻になる可能性が高いので、この直後のOFでどれだけ得点できるか、逆の視点ではボールロスト後のDFをいかに守るのかが勝敗に影響します。

この試合のそれぞれの相手チームがミスした直後のOFに関するデータは以下の通り、ジークスターの方が相手ミス後の得点率が高くなっています。

ブレイヴキングス:10本中3得点(得点率30%)

ジークスター東京:13本中7得点(得点率53.8%)

さらにこのジークスターの7得点のうち6点は速攻で得点しており、相手ミス後の速攻の意識が高いこととがデータに表れています。ジークスターは相手ミス後の得点が7得点とこの試合の得点全体の22.2%を逆速攻で取っており、相手の隙を見逃さず点差を縮め、逆転につなげていたことがわかります。

ブレイヴキングスも決してバックチェックの意識が低いチームではない中でこれだけ得点されているので、ジークスターと対戦するチームはこの速攻への切り替えの高さ、走力に対しての警戒が必要となります。

ゲームメイカーごとのOFデータの差

この項目では、ゲームメイカーごとに仕分けたデータを公開しています。
ゲームメイカーの記録をつけているのはセットOFのみ、ゲームメイカーが誰なのかについてはOFの入りなどを見て主観的にメモしているため、チーム公式の分析とは差が出るかもしれません。

この記事の書き出しで「地力ではまだブレイヴキングスの方が上に感じた」としたのも、このゲームメイカーのデータの差をもとにした印象になります。

チームごと、選手ごとのOFの特徴やクオリティを比較してみるとしっかりと差が出ていてなかなか面白いデータになっています。

ブレイヴキングスのゲームメイカー別データ

・北詰選手

ブレイヴキングス刈谷 北詰選手

両チームのゲームメイカーのOFデータを比較してみると、北詰選手のセットOFを作るクオリティが高いことが明らかになります。
ただミスの割合も高く、決定機を作る能力の高さがあるものの、ミス数が多いという傾向があることも分かります。ミスをしているシーンを振り返り、取るべきリスクなのかを分析することで、より精度が高くなる余地、伸びしろがあることがわかります。

・松下選手

ブレイヴキングス刈谷 松下選手

途中交代で出場する松下選手には、北詰選手がリスクを取る傾向がある中でボールロストなどにより流れが悪くなってきた際の活躍が求められるため、出場後のファーストプレーを練っておくと、チームへの貢献度が高くなるかと思いました。
この試合では、北詰選手がゲームメイカーのシーンでOFミスからのエンプティという流れで21-24とこの試合最大の3点差をつけられたところでの途中出場でした。
そのファーストプレーで松下選手のパスミスによるボールロストによりOF権を失ってしまうのですが、これは北詰選手の控えとして出場する役割としては最悪のパターンだったかと思います。その直後のジークスターOFがOFファウルによりボールロストしてくれたから事なきを得たものの、このシーンでもしカウンターにより失点し21-25と4点差に離されてしまっていたら、完全にジークスターの流れになっていた可能性があります。

・吉野選手

ブレイヴキングス刈谷 吉野選手

ゲームメイカーとなるシーンが少ないものの得点率の高い吉野選手はそのシュート分布を見ると①自分で攻める②ピボットに落とすかウィングに捌く、といったシンプルなOFをしているように見られます。
試合を通じたゲームメイクとなるとまたスタイルも変わってくるのだと思いますが、打てる・抜ける・捌けるといったバランス型の北詰選手のゲームメイクの間に、エース泰然とした吉野選手によるゲームメイクが混ぜられるのはDFとしてもやりにくいのではないでしょうか。

・渡部選手

ブレイヴキングス刈谷 渡部選手

ジークスターのゲームメイカー別データ

この試合では、スタートして東江選手、前半10分過ぎの5対8とブレイヴキングスに3点リードを許した展開のあたりで小山選手に選手交代し、プレイタイムとしては小山選手が最も長くゲームメイカーを務めていました。
得点率で比較をすると、小山選手・東江選手の違いがあまり内容に見えますが、小山選手の方がGKに阻止されるシュートの割合が少なく、被ブロック数も少ないことから、DFを崩してシュートまで持ち込むシーンが多い傾向があるように取れるデータとなっています。
この傾向についてはエリア別のデータで補完すると小山選手の方がDF中央9m内でのシュート割合が多くなっていることからより視覚的にも分かりやすいかと思います。
ただ、試合序盤での選手交代であったことなど、東江選手のプレーのサンプル数が少ないことからもあくまでも参考のデータにはなります。

ジークスター東京 小山選手

ジークスター東京 小山選手

ジークスター東京 東江選手

ジークスター東京 東江選手

ジークスター東京 伊禮選手

ジークスター東京 伊禮選手

OFデータ比較

この項目では、勝因・敗因解説といった形ではなく、OFについて集計しているデータを公開したいと思います。

OF種別詳細データ

OF種別のデータで比較すると、ブレイヴキングスの方がセットOFにおける決定率が高くなっており、ジークスターは速攻の精度が高いことがわかります。

フィールドシュート詳細データ

フィールドシュートの本数で比較すると、ジークスターの方が多くなっています。
フィールドシュート率(OF回数に対するシュートの割合)はジークスターが上回っていますが、フィールドシュート得点率(フィールドシュート本数に対する得点の割合)、枠内フィールドシュート率(フィールドシュート本数に対する枠内シュートの割合)はブレイヴキングスの方が上回っています。

このこデータから、ブレイヴキングスが次節で勝利するための対策を考えるとすると、OFのクオリティとしてはジークスターを上回っていると考えられることから、ミスを減らしてフィールドシュートを増やすアプローチが考えられます。
今回の試合ではハムザ選手がトップの位置を守る5:1DFの際にミス数が多くなってしまったため、立体DFへの対策が有効になると考えられます。

一方、ジークスターが次節でブレイヴキングスに勝利するためにはフィニッシュの質を向上させることが必要になります。
シュート本数に対する得点率を上げるため、ブレイヴキングスよりも本数が多くなっている枠外シュートを打っているシーンについて質的な分析を行い、枠外シュートの本数を減らして枠内シュート本数を増やすことが有効な対策になると考えられます。

OFエリア別データ

エリア別のシュート分布を見ると、セットOFにおいてブレイヴキングスがウィングまでボールを運べていることがわかるかと思います。9m内についてもまんべんなく崩せており、北詰選手のゲームメイクのクオリティがこのエリア分布によく表れています。

このデータからもジークスターの5:1DFの成果が表れており、リーグ屈指のバックプレイヤーが揃うブレイヴキングスですが、セットOFにおいて9m外からのシュート本数が5本と少なくなっていることがわかります。
一方、ジークスターはブレイヴキングスが0:6DFであることもあってか、セットOFの9m外からのシュートにおいてブレイヴキングスの約3倍となる16本ものシュートを放っていますが、3得点と得点率が低くなっていることがわかります。
速攻の流れの中で打つ9m外からのシュート得点率は高く、このことからもシュート力が不足しているのではなくセットOFでDFを崩せればもう少し9m外からの得点を勘定に入れることができるため、試合運びが楽になります。

OFエリア・シュート種別データ

エリア別、シュート種別のデータを見てみると、ピヴォットのシュート位置に差があることがわかります。
ブレイヴキングスは5:1DFへの対応という面もあったのかLB・RBの裏の位置でピヴォットがパスを受けるシーンが多かったようです。
ジークスターは9m内中央の位置にピヴォットのシュートが集中しており、このデータの違いからもDFシステムの影響やOF戦術の傾向を読み取ることができます。