レットトルネード佐賀の敗因分析から見る「ジークスター東京との試合で選択してはいけないOF戦略」

リーグH2024-2025

リーグH2024-25レギュラーシーズン 2024年10月18日に開催されたのジークスター東京vsレッドトルネード佐賀の試合を分析しました。
昨シーズンのベスト4同士の対決ということで楽しみにしていた試合です。

この試合の分析にあたりデータを細かく見ていく中で、気づいたらレットル佐賀の敗因を探る方向に深掘りしてしまい、タイトルの通りレットル佐賀視点でのジークスター対策のような記事になってしまいましたが、お付き合いください。

また一番最後の項目になりますが、この記事からダッシュボードに新機能として追加したGKのシュートコース別分析のデータも載せていますので、キーパーの分析だけ見たい、というGKマニアな方は目次から飛んでみてください。

レットルの敗因を考察してみる

はじめに:この試合の分析は後半20分までのデータが重要

試合終了時点の点差は5点差とものすごく点差が開いた結果といえるものではありませんでした。
これはラスト10分にジークスターが若手を中心とした試験的なメンバーとしていたことも影響しています。
試合終了間際の10分間だけを見ると、ジークスターの得点が4点であるのに対し、レットルは10得点となっており、レットル佐賀はこのラスト10分の攻防で点差を6点も縮めていることがわかります。

このラスト10分を含めて分析をしてしまうと、本当の両チームの差を見誤ることになります。
そのため、両チームの差をより正しく測るためこの項目では試合開始~後半20分までのデータで両チームの力の差を解説していきます。

敗因解説

この試合の敗因は昨シーズンのPLAYOFFS 1st STAGEでの対決時と概ね同じでレットル佐賀のOF戦術がジークスターDFと相性が悪い事にあります。
レットル佐賀のOFはディスタンスシュートを中心としたOFプランを選択していましたが、リーグHでも特に高身長となるプレイヤーが揃うジークスターDF陣に対してディスタンス主体で攻めるのは一筋縄ではいきません。結果としてレットルOFのシュートはDFにブロックされたり、DFのプレッシャーにより枠外となるシュートが多く決定率が低くなっていました。
さらにここまで点差がついた要因としては、レットトルネードのミスも重なり、本来はレットル佐賀が走って勝ちたいのにもかかわらず、逆にジークスターに走られる場面が多くなり後半20分までの間に最大12点差の大差をつけられるワンサイドな試合展開になりました。

試合開始から後半20分までの50分間における両チームのOFデータを比較してみましょう。

上のレーダーチャートについて、赤がジークスター、青がレットル佐賀のOF分布になります。
ジークスターはウィングのシュートが0本となっていますが、ブレイクスルーを中心として高い決定率で豊富な攻め手を展開できていることがわかります。
一方、レットル佐賀はディスタンスで終わるOF機会が多くなっていること、ウィング以外は決定率が低いことが決定率が低くなっていることがわかります。

このOFデータについてさまざまな角度から詳しく見てみましょう。

まず初めにOF種別ごとの決定率について、上の画像から両チームの差を見ていきましょう。赤がジークスター、青がレットル佐賀のデータです。
集計の対象はPT・エンプティを除いたフィールドシュートとなっており、右側の棒グラフにおいて濃い赤・濃い青が得点できている本数となるので、右側の棒グラフで濃い色の面積が広い方が決定率の高いOFを展開できているといった見方ができます。

ジークスターOF

両チームの棒グラフを比較するとわかるようにセットOF・速攻OFともにジークスターの方が決定率が高くなっています。
その中でもジークスターOFの特筆すべき点としては、速攻の得点数と決定率が高いことにあるでしょうか。
ターンオーバーの機会ではワンマン速攻となるシーンが多かったこともありますが、それにしても速攻のOFミスは1本のみ、他はすべて枠内にシュートを打てている点は素晴らしいデータといえます。
このデータから「ジークスターに走られて負けた」という点がわかるかと思います。

レットル佐賀OF

一方のレットル佐賀としてまず気になるのはセット、速攻、クイックスタートのすべてのOF種別において、枠外シュート、被ブロック、ボールロスト(OFミス&OFファウル)割合が高いことです。
これらの枠外シュート、被ブロック、ボールロストといったOF結果は得点のチャンスがないプレーです。
これらノーチャンスとなるプレーを減らし、いかにOF回数に対する枠内シュートの割合を増やしていくかが重要なのですが、今回のレットル佐賀のOFに関してはこの点に課題が残る結果になったといえます。

決定率の低くなっていたレットル佐賀のセットOFを深掘りしてみましょう。
速攻についてはミスが多いという反省点がメインになるので、セットOFに注目していこうと思います。

レットル佐賀のセットOFではディスタンス14本に対して5得点となっており、そのほかのシュートシチュエーションと比較してディスタンスの本数が多くなっている割に35.7%の低い決定率となっています。
ブレイクスルーについてはRB側のシュートが4本中1本の25%となっている点についても修正が必要と思われます。RB側はRWの中田選手を警戒してウィングへパスさせないDFとなっていることが想定されるので、RBのブレイクスルーの決定率を上げていくことで、ジークスターに対応を迫ることができると考えられます。
データについて細かく見てみると、右利きの選手だけではなく左利きの選手のシュート決定率も低くなっているので、ここはもう少し踏み込んで質的な分析をしたら、ジークスター対策として改善できるポイントとなるかもしれません。

ディスタンスの確率

LB側の決定率・得点数が低い

上の画像はエリアごとのシュート本数、得点数を表しています。赤がジークスター、青がレットル佐賀のデータで、薄い色の円がシュート本数、濃い色の円が得点数になっています。
この画像を見るとわかる通り、全体的にLB側の決定率が低くなっており、レットル佐賀がジークスターに勝利するためにはLB側の決定率を上げることが急務になります。
成田選手、山口選手の両LBは二人合わせて5本のシュートを打っており、すべてディスタンスシュートとなっています。そのうち4本がDFにブロックされ、残り1本もポスト直撃の枠外シュートになっていますので、シュートシーンすべてにおいて得点のチャンスがない結果になりました。

ディスタンスシュート全体、といった視点でデータを見ると、この試合でレットル佐賀は17本のディスタンスシュートを放ち、5得点(決定率29.4%)となっています。ディスタンスを主軸に置くOF戦術において試合に勝利するためにはこの決定率は厳しいものがあります。
枠内に打ったシュート7本のうち5得点となっている点は評価できるポイントとなっていますが、17本のディスタンスシュートのうち7本もブロックされており、枠外シュートが3本となっている点についてはジークスターDFの思惑通りの結果になってしまったでしょう。

「ジークスターに対してDFを崩さずにディスタンスを打ってしまうとこうなってしまう」という試合展開であり、全チームに共通する教訓となったのではないかと思います。

ただレットル佐賀も前節を踏まえて全く対策してこなかったわけではなく、三重選手・庄子選手にはDFの正面に入らないジャンプの方向付けやタイミングやリリースの高さを変えるといった工夫をしている場面が見られ、CB・RB側でのディスタンスの決定率が比較的高くなっている点にそ成果が表れていたといえます。

ボールロストに関するデータ

後半20分までのデータでボールロスト数を比較するとジークスターが8回、レットル佐賀が14回となっています。
レットル佐賀はジークスターに対して約2倍のボールロスト数となっており、OF精度の差がボールロスト数のデータに表れています。

ここまでレットル佐賀の敗因をあげていますが、試合内容の基本的な部分は昨シーズンのプレーオフでの対決に近いものがあります。
昨シーズンの試合も同じくレットル佐賀が敗戦したものの、OFを修正することで十分に勝利できる可能性があった内容でした。しかし今シーズンの対決では最大点差12点差まで差をつけられ、レットル佐賀の完敗といえる内容でした。この昨シーズンから今シーズンへの試合内容の違いにジークスター東京の進化を感じられる内容でした。

なぜ?と思ったポイント

レットル佐賀の両ウィングにシュート機会が少ない点について

この試合、レットルRWの中田選手は後半20分までにウィングのシュートを4本中4本得点、さらにウィング以外のシュートもすべて決め決定率100%で6得点と精度の高いプレーを披露していました。

その中田選手のウィングからのシュートについて、4本のうち3本がクイックスタートの場面となっており、セットOFでは1本しかウィングからのシュート機会がありませんでした。

逆側のLW、梅本選手についても同様で、前半終了間際に1本ウィングのシュート機会があったのみになります。

ディスタンス偏重となっている今のOF戦術を継続するとジークスターとしてはもともとフィジカルの優れた選手の多いDF中央を厚くするだけで効率よくレットル佐賀の得点率を下げることができます。
もっとアウトの攻めも織り交ぜてウィングにもパスを振っていくことでDFの間も広がり、DFの間を狙うことでディスタンスの精度も向上するはずです。
このように、OF戦略の軸にディスタンスを据えることとウィングのシュート割合を増やすことは必ずしも矛盾するものではないことから、決定率の高い中田選手を中心にウィングのシュート本数を増やしていくとまた違った展開となることが期待できます。

7人攻撃のリスクとリターンのバランスについて

レットル佐賀の7人攻撃の精度とその7人攻撃を続けたOF戦略についても疑問が残りました。

この試合での7人攻撃は最初からダブルポストにするのではなく、バックプレイヤー4枚でOFをスタートして展開の中でバックプレイヤー1枚がピヴォットに入る展開が多かったように記憶しています。この展開が対ジークスターとしては機能していませんでした。

ダブルポストとなって以降、パスワークが途切れ足も止まり、OFミスや単発のミドルシュートがおおくなっていたように見受けられます。
レットルの意図した7人攻撃による成果は得られていなかったと思われます。

7人攻撃のシーンのタグ付けが不足している可能性があるので正確なデータではないかもしれませんが、7人攻撃時のOFミス数が4、シュートブロックが1となっています。

明らかに手詰まりな7人攻撃を継続したことで、結果としてエンプティによる失点5を献上する結果になりました。

GKデータ比較

この項目では、後半20分までのGKのデータに特化して比較していきます。
このデータの集計対象はフィールドシュートのみになっています。
下記のデータのうち赤色がジークスター、青色がレットル佐賀のデータとなっています。
後半20分までにおいてジークスターはPTのシーン以外はすべて岩下選手しか出場していませんので、赤色は岩下選手のデータ、青色は小峰選手と木村選手のセービングに関するデータとなっています。

折れ線グラフはセーブ率のデータになっています。赤がジークスター、青がレットル佐賀のデータです。
後半20分までのセーブ率(枠内に打たれたシュートをGKがどれだけセーブしたか)で比較すると5.3ポイント差とそこまでの差はありませんが、阻止率(枠外シュートも含めた「得点させなかった数」)で比較すると16.1ポイントと大きな差があることがわかります。
枠外となるシュートにはGK・DF双方のプレッシャーによる影響があると考えられるため、DFの総合力として両チームに差が出ていることがわかります。

上の画像はエリア・シュートシーンごとのGKセーブに関するデータとなっており、赤がジークスター、青がレットル佐賀のデータです。
後半20分までのフィールドシュートを対象に左側の棒グラフがエリア別のセーブ率、右側の棒グラフがシュートシーン別のセーブ率を表しています。
ジークスターの岩下選手はディスタンスのセーブ率が低め、その分ブレイクスルーやピヴォットといったフィールドプレイヤーと1対1となるシチュエーションのシュートのセーブ率が高いことがわかります。
レットル佐賀のGKは9m内に侵入された場合のセーブ率が低くなっていますが、この試合では9m内に侵入されたシュートについて、6本もワンマン速攻があったこともセーブ率が低くなっていることに影響していると考えられます。

シュートコース別の分析データを見ると、岩下選手は足元の低いシュートコースに対するセーブ率が低く、高いコースのセーブ率が高いことがわかります。

レットル佐賀については右上、顔上、左上といった高いシュートコースのセーブ率が低くなっていることがわかります。
高いコースに打たれたシュートの内訳をみるとブレイクスルー6本、ディスタンス2本、ピヴォット2本、ワンマン速攻2本となっていました。
シューターと1対1となるシーンにおいて高めコースのシュートをセーブする確率が低くなっていることがわかります。

このコース別分析は最近ダッシュボードに追加した機能となりますが、コース別にデータを見てもGKの特徴が出て面白いですね。