リーグH試合分析:GKセーブ率&勝敗を分けた10分間のプレー

豊田合成ブルーファルコン名古屋

リーグHブルーファルコン名古屋vs安芸高田わくながハンドボールクラブの試合を分析しました。

昨シーズン無敗のブルーファルコンに黒星がついた試合ということで試合内容が気になりこの試合を分析してみることにしました。わくながHCのOFクオリティの高さや、特に終盤は緊張感のある展開となっていて試合を楽しみながら分析することができました。

結論から、ということでこの試合の勝敗を分けたのはまず両チームGKのセーブ率、続いてOFミス、そしてわくながHCの異様なまでの枠内シュート率の高さでした。
勝因・敗因についてデータをもとに解説していきます。

両チームGKのセーブ率について

この試合の勝敗を分けた要因としてセーブ率を挙げましたが、それほどに両チームのGKに関するデータには差がありました。
ここでは両チームのGKデータを深掘りして解説していきます。

ブルーファルコンGKセーブ率の詳細データ

分析してみて一番インパクトのあったデータは、日本リーグ屈指のGK中村匠選手を擁するブルーファルコンGK陣の不調でした。
全体のセーブ率といった点でも18.9%と低調なのですが、この試合でブルーファルコンGK陣は試合開始直後の前半5分から後半5分までの30分間のセーブ率が0%という驚きのデータを記録しています。
その間に受けた16本のフィールドシュートを1本もセーブできず、ゴールに到達したシュートはすべて失点となっていたということになります。

もちろんGKだけの責任ではなく、どのようなシュートを打たれているのかという点ではDFにも原因があるのは承知の上ですが、そのことを踏まえても30分間セーブ数ゼロというのは勝敗を左右するデータであったと思います。

これまでにブルーファルコンの試合はそれなりの試合数を分析していると思うのですが、ここまで中村選手の調子が悪い試合は記憶にありません。
普段はセーブ率の高い9m外からのシュートや角度の狭いサイドシュートもことごとく得点されており、精彩を欠くプレーが続いていました。交代出場した宮城選手もセーブ率0%と、GK交代により悪い流れを断ち切ることはできず、前半で7点という大量リードを許してしまいました。

試合を通じたデータとして特徴的なものはウィングのシュートを100%(10/10)得点されていた点です。DFが狭い角度まで守っても得点を防げず、ブルーファルコンが試合のペースをつかむことができませんでした。

わくながハンドボールクラブGKの課題

わくながHCのGKは原口選手の活躍を中心に試合を通じて高いセーブ率を維持していたような印象がありますが、試合を通したセーブ率を見てみると36.6%と取り立てて高いものではありませんでした。
詳しくデータをみると前半のセーブ率が52.9%であるのに対し、後半のセーブ率は21.7%となっています。

後半のセーブ率が低くなっていたとはいえ、OFミスからカウンターを受けた際など決定的な場面ではスーパーセーブを見せ、ブルーファルコンを苦しめていました。こういった点はセーブ率のデータでは測れない貢献度の高いプレーだったと思います。
とはいえ、わくながHCのフロントとしては選手交代を含めたGK戦術に課題がありそうです。

ミスに関するデータ

勝敗を分けた10分間

「ミスが試合の勝敗に影響を与えていたこと」についてデータで解説する前提として、まずは試合全般のデータを見てもらえると、理解しやすいかと思います。
前半・後半の両チームそれぞれの得点は以下の通りになっています。
【前半得点数】
 ブルーファルコン:11
 わくながHC:18

【後半得点数】
 ブルーファルコン:19
 わくながHC:13

ブルーファルコンの猛追もあり最終的なスコアは1点差ですが、前半の点差が勝敗を分けたということが分かるかと思います。
続いて前半にここまでの点差がついた要因を細かく見ていこうと思います。
前半終了時点の7点のリードのうち、5:00~15:00の間の10分間の攻防でわくながHCが5点のリードを奪っています
この0:00~15:00の間の両チームのデータを比較してみましょう。
・得点(0:00~15:00の間のみ)
 ブルーファルコン:4
 わくながHC:9

・ボールロスト数(0:00~15:00の間のみ)
 ブルーファルコン:4
 わくながHC:1

ブルーファルコンの前半のボールロスト数が7となっているので、この10分間で前半のボールロスト数の50%以上が集中していることがわかります。

ミスの数だけではなくミスがどれくらい失点につながったか、というデータも重要になります。
前半0:00~15:00の間で起きたOFミスについて、直後のDFで失点しているかどうかのデータを見てみましょう。

ミス後のDFデータ(0:00~15:00の間のみ)
 ブルーファルコン:3失点/4ミス
 わくながHC:0失点/1ミス

この「試合の勝敗を分けた10分間」においてブルーファルコンはOFミスが多く、そしてOFミスが失点につながってしまっていたことがわかるかと思います。

試合全体のミスに関するデータ

勝敗の要因となるような、チーム間の差が出ていたデータとして前半5:00~15:00のデータに注目して両チームのミスに関するデータの特徴を挙げました。しかしこの時間帯はわくながHCのミス数が1とサンプルになるデータが少ないので抽出対象を試合全体に広げて確認してみましょう。

実は試合全体のデータではブルーファルコンよりもわくながHCの方がミス数が多くなっています。
・ボールロスト数(試合全体)
 ブルーファルコン:9
 わくながHC:16

試合を通じたOFミス後のDFデータを見ると、2チームともOFミス直後のDFにおける失点数が7点と全くの同数になっていました。
しかしブルーファルコンはボールロスト9回に対して直後のDFで7失点、わくながHCは16回のボールロストに対して7失点と、その失点率には差が出ていることがわかります。

1点差で勝敗が分かれたこの試合では、このミス数、ミス直後の失点に関する両チームの差が勝敗に大きく影響していたと言えます
わくながHCのGK原口選手はOFミス後のカウンターで水町選手やディエゴ選手、出村選手のノーマークシュートをセービングしていましたので、原口選手の活躍が勝敗を分けた、といえるデータでもあります。

わくながHCとしては後半のミス数が多くなっている点が課題になります。
ブルーファルコンがアグレッシブなDFを敷いてくるとOF精度が低くなっていたので、OFの対応力として「攻めあぐねたとしてもボールは失わない」といった改善ポイントが挙げられます。

わくながHCの異様なまでに高い枠内シュート率

両チームのフィールドシュートに関するデータについて比較していきます。

フィールドシュート数はブルーファルコンの方が多くなっています。
 ブルーファルコン:46本
 わくながHC:39本

フィールドシュートをどれだけ枠内に打てているか、といった枠内シュート率には差が出ていました。
 ブルーファルコン:87.0%(40/46)
 わくながHC:94.9%(37/39)

枠内シュート率94.9%というのはかなり高い数値であり、DFにブロックされた2本のミドルシュート以外はすべて枠内に打っている、ということになります。
このデータもわくながHCにとって勝因の一つであることは間違いありません。

得点率について:エリア別、シュートシーン別の視点からデータを見る

エリア別のデータからOFを深掘り

この試合ではブルーファルコンのLBバラスケス選手が欠場していたことも響き、セットOFでの9m外からの得点は3点、得点率も3得点/10本の30%と低くなっています。
ブルーファルコンのOFプランとしては9m外からの得点が思うように取れず、9m内の中央とRB側に得点が集中していることがわかります。

続いてこのブルーファルコンのセットOFにおける9m内の得点の偏りについて、エリア×シュートシーン別の集計データで深掘りしてみましょう。

9m内の中央とRB側の得点内訳をみてみると、ピヴォットによる得点が多くなっていることがわかります。ピヴォットの得点について時間帯別に集計してみると、前半は2得点だったのに対して後半では7得点となっていました。
前半に大量リードを許したブルーファルコンが後半からはピヴォット(≒ディエゴ選手)偏重の攻めに切り替えてきたことがデータから読み取れます。

シュートシーン別のデータからOFを深掘り

また別の角度から両チームのOFを比較する切り口として、シュートシーン別のレーダーチャートを見てみると、差が顕著に表れています。

このレーダーチャートはすべてのOF種別(セット・速攻・クイックスタート)のシュートを集計対象としたものです。
両チームを比較してみると、ブルーファルコンとしてはディスタンス・ウィングがシュート本数に比べて得点できていないこと、わくながHCはウィング、ピヴォットにて確実に得点できていることがわかります。