ハンドボールの試合におけるOF戦術選択の重要性とOFミスの質の違い

試合分析

23-24シーズンのプレーオフ1stステージ ジークスター東京vsトヨタ紡織九州レッドトルネード佐賀の試合を分析しました。

この試合の勝敗を分けたのはレットル佐賀のディスタンスシュートを多用したOF戦術両チームのOFミスのタイミングの違いでした。

この試合で面白かったデータはGKのセーブ率比較ではレットル佐賀が5%上回っているので、同じ枠内シュート数であればレットル佐賀が勝利してもおかしくない試合だったということです。

レットル佐賀勝利の可能性を解説

・セーブ率は「枠内のシュートをどれだけセーブしたのか」というデータ
・枠外シュートは計算に含まれない

仮にレットル佐賀がジークスターと同程度の40本の枠内シュートを打てていれば、以下のようになっていた可能性があります。

ジークスターの枠内シュート数:41本(この試合の実際の本数)
レットル佐賀GKのセーブ率:26.8%
→ジークスターのフィールドシュートによる得点は30点
ここにPTとエンプティの3点を加算して、最終的なジークスターの得点は33点

レットル佐賀の枠内シュート数:ジークスターと同程度の40本と仮定
ジークスターGKのセーブ率:21.9%
→レットル佐賀のフィールドシュートによる得点は31点~32点となる見込み
ここにPTとエンプティの2点を加算すると、レットル佐賀の得点は最大で34点という可能性がありました

以上から、枠内シュート数の差が勝敗を分ける重要なポイントであったことがわかるかと思います。ではなぜ枠内シュート数に差が出てしまったのかについてデータをもとに試合展開を解説します。

枠外シュート数・被ブロック数の差

レットル佐賀の敗因といえるデータとして、枠外シュート・被ブロックによりゴール未到達となったシュートの数がジークスターよりも8本も多かったことが挙げられます。これはレットル佐賀の方が得点のチャンスが全くないシュートを8本も多く打っているということになります。

その細かい内訳としては以下の通りです。
枠外シュート本数の比較
レットル佐賀:10本
ジークスター:4本

被ブロック数の比較
レットル佐賀:5
ジークスター:3

レットル佐賀の枠外シュートと被ブロック数で集計された15本のシュートの内訳を確認してみると、11本がディスタンスシュートによるものでした。

ディスタンスシュートに関するデータ比較

どうやらレットル佐賀の敗因にディスタンスシュートが関係していそうなので、両チームのディスタンスシュートのデータを比較してみました。
以下のように、得点数・決定率ともにジークスターの方が大きく上回っていること、レットル佐賀OFはフィールドシュート本数全体の50%以上で決定率の低いディスタンスシュートを選択していることがわかります。

レットル佐賀
フィールドシュート全体の本数:48本
ディスタンスシュートの割合:52.1%(25本)
ディスタンスシュートの決定率:28%(7得点)

ジークスター
フィールドシュート全体の本数:48本
ディスタンスシュートの割合:41.7%(20本)
ディスタンスシュートの決定率:60%(12得点)

被ブロック数、枠外シュート数も多くなっていることから、レットル佐賀のディスタンスシュート主体といえるOFがフィジカルで勝るジークスターDFに阻まれたことが敗因であったと言えます。
フィジカルだけが勝敗を分ける要因ということではありませんが、身長やパワーといったフィジカルの要素で劣るチームが正面から対峙すればブロックされたり、守られるシーンは増えてしまいます。そのフィジカル面での不利をどのように戦術でカバーするのかが重要になります。
レットル佐賀の戦術選択という観点では、これだけディスタンスシュートの決定率が低く得点チャンスを失っているのに、セットプレーでLWのシュートが全くないというところが気になりました。

ミスをするタイミング

この試合の勝敗を分ける2つ目のポイントとしてミスをするタイミングを挙げていました。「OFミスはOFミスでしょ?」と思うかもしれませんが、この試合の両チームのミスの質はちょっと異なります。両チームのOFミス数としては、ジークスターのOFミスが15回、レットル佐賀のOFミス数が19回と両チームともミス数が比較的多めな試合展開だったことがわかります。

レットル佐賀はジークスターに比べてミス数も多くなっていますが、レットル佐賀のOFミス19本のうち8本がジークスターのミスの直後のOFで起きています
これは以前の投稿でも書いたことのある内容ですが、相手のミス後のOFは通常のOF機会とくらべて「価値の高いOF機会」といえます。ミスをした側のチームにとってはDF位置に戻りながらのDFとなり、体制を整えるのが難しくどうしても失点率が高くなるからです。
この試合でのレットル佐賀はミスをするタイミングが悪く「価値の高いOF機会」を8回も失い、その分だけジークスターに「価値の高いOF機会」を提供していたことが敗因となったといえます。

一方、ジークスターのミス15回のうち同様にレットル佐賀のミス直後にOFミスをした回数は3回となっており、ここにも両チームの差が出ています。

その他のポイント

退場トラブル

さらに、レットル佐賀としてはもったいない退場が多かったように思えます。
特に試合全体の退場4回のうち不正入場1回、庄司選手の全く同じパターンでの退場2回の3回の退場シーンについて、このうち2回の退場をなくすことができれば、また違う展開があったように思えます。

JHLの、それもプレーオフの舞台ともなるとDFがチャレンジしないといけない場面も多く、仕方のない退場はあると思います。
しかし、今回挙げた3回の退場のうち不正入場と、同じシチュエーションの繰り返しとなった庄司選手の2回目の退場はチームのマネジメント次第で回避できた可能性があっただけに、もったいないと感じてしまいました。

GK家田選手の渋い活躍

試合の主導権をお互いに渡さず、前半の終盤まで1点を争う展開が続いていましたが、ここで流れを引き寄せるシーンにジークスターGK家田選手のセービングがありました。
前半20分過ぎ、12-11でジークスターが1点リードしている場面でジークスターがGK甲斐選手からGK家田選手に交代します。

前半終了間際にレットル佐賀のOFミス等も絡んで15-13の2点差となった場面でレットル佐賀のエース、三重選手のディスタンスシュートを阻止して、前半3点差での折り返しにつなげます。

後半序盤、再度点差を縮めるため三重選手がディスタンスシュートを放ちますが、再度家田選手が得点を許さず、東江選手の連続得点につながり
ジークスターは5点差のリードを確保、ここからはレットル佐賀を寄せ付けず試合終了までリードを守り続けました。

このいずれのシーンもレットル佐賀の点取り屋、三重選手のシュートを阻止しており、ここぞという場面で相手のエースを止めることで、レットル佐賀としては心理的な負担も大きかったかもしれません。

試合全体を見ると、家田選手のセーブ率は試合を通じて23.8%と甲斐選手よりも高いセーブ率ではあるものの、そのセーブ率だけでチームを勝たせるようなスコアではありません。
しかしDFのハードワークにより枠内シュートを減らすフォローと、そしてここぞという場面で相手のエースを抑える家田選手の勝負強さがジークスターのプレーオフ初勝利を引き寄せたと言えるでしょう。

スタッツ