23-24season PLAYOFFS finalの分析結果をもとに、豊田合成ブルーファルコンの強さをデータを用いて解説します。
GKの中村選手がMVPを受賞しておりGKの活躍にフォーカスされがちですが、その陰に隠れてOF面も驚異的なデータになっています。GK・OFの両面からブルーファルコンの強さについて解説していきたいと思います。
PLAYOFFS finalのデータをざっくり解説
JHL最終週の試合結果との比較
GKとOFの細かいデータを見ていく前に、プレーオフファイナルの試合内容について概要を解説します。この試合全般のデータを把握しておくと、ブルーファルコンのGKとOFの凄さをより深く理解することができるかと思います。
まず、データを全体的に見ると、試合内容としてはブレイヴキングスの勝ち試合だったような印象を受けました。
JHL最終週の直近の直接対決ではブルーファルコンが4点差で勝利していますが、その際の試合のデータと比較するとブレイヴキングスのOFがプレーオフファイナルに向けて課題を修正してきたことがよく分かります。
前節(5/17の試合)のデータ
フィールドシュート数:ブレイヴキングスの方が7本少ない
OFミス数:ブレイヴキングスの方が6回多い
PT獲得数:ブレイヴキングス5本(5得点)、ブルーファルコン8(6得点)
エンプティシュート数:ブレイヴキングス0本、ブルーファルコン4本(3得点)
プレーオフファイナルのデータ
フィールドシュート数:ブレイヴキングスの方が7本多い
OFミス数:ブレイヴキングスの方が2回少ない
PT獲得数:ブレイヴキングス3本(3得点)、ブルーファルコン2本(0得点)
OFミスが少なくなっており、OFをしっかりとシュートで終えられていることがわかります。フィールドシュート数については、前節と逆転してブレイヴキングスの方が7本多くなっています。
PT獲得については同程度ではありますが、ブレイヴキングスのGK加藤選手がブルーファルコンのPTをすべて止めて得点させませんでした。
これらのシュート本数に関する単純なOFのデータだけ見ればブレイヴキングスが4点差くらいで勝ってもおかしくない試合内容だったのですが、これを覆した大きな要因はGKの活躍と高いクオリティのOFでした。
GKに関するデータ
フィールドシュート全体のセーブ率として中村匠選手のセーブ率が36.1%、ブレイヴキングスの加藤選手、岡本選手のセーブ率が24.3%と10%以上の差をつけています。
枠内シュートは同じ数になっていますが、PTはフィールドシュートの集計に含まれていないので、PT3点分のビハインドを度重なる好セーブで覆し、ブルーファルコンのJHL4連覇に貢献しました。
GK中村選手の活躍についてデータをもとに紐解いていきたいと思います。
場面別のセーブ率
両チームのフィールドゴール(PT・エンプティ以外)のGKセーブ率をシーン別で比較してみました。
様々な場面別にデータを見ているのですが、ほとんどのシチュエーションで、中村匠選手のセーブ率が上回っていました。
9m外からのディスタンスシュートのセーブ率
ブルーファルコン:66.7%
ブレイヴキングス:45.5%
(加藤選手50.0%、岡本選手33.3%)
6m-9m間のディスタンスシュートのセーブ率
ブルーファルコン:0.0%
ブレイヴキングス:25.0%
(加藤選手0%、岡本選手40.0%)
6m-9m間のシュートすべてのセーブ率
ブルーファルコン:25.0%
ブレイヴキングス:15.4%
(加藤選手7.7%、岡本選手23.1%)
ブレイクスルーのセーブ率
ブルーファルコン:11.1%
ブレイヴキングス:0.0%
サイドシュートのセーブ率
ブルーファルコン:44.4%
ブレイヴキングス:20.0%
(加藤選手20.0%、岡本選手出場時はサイドシュート0本)
ピヴォットシュートのセーブ率
ブルーファルコン:33.3%
ブレイヴキングス:25.0%
(加藤選手0%、岡本選手50.0%)
特に中村選手の9m外からのディスタンスシュートに対するセーブ率は圧巻です。
一方で、9m内からのディスタンスシュートになると中村匠選手もさすがに安定してセービングできるわけではないということがわかります。
このデータだけ見ると「では9m内からディスタンスシュートを打てばいいのでは」と思ってしまいますが、セーブ率の対象となる枠内シュート以外のデータも含め、9m内のミドルシュート全体のOFデータを比較してみると、ブルーファルコンの強みが見えてきます。
6-9m間のディスタンスシュート決定率に関するデータ比較
ブルーファルコン:3得点/5本(5本すべてが枠内シュート)
ブレイヴキングス:3得点/5本(うち1本枠外、1本が被ブロック)
両チームのシュート本数、得点数とも同じスコアになっています。
ブルーファルコンは5本すべて枠内シュートを打っていますが、GKに2本止められています。
ブレイヴキングスのシュート5本のうちの枠内シュート3本はすべて得点につなげていますが、2本は枠外、被ブロックとなっています。このデータからは、ブルーファルコンDFが9m内に侵入された際に強いプレッシャーをかけていることが推測されます。
確かに9m内に侵入されてディスタンスシュートを打たれると中村選手のセーブ率は低くなっていますが、DFがその分を補っている、ということがわかります。
ブレイヴキングスが3本の枠内シュートすべてを得点につなげている点はさすがですが、ブルーファルコンの9m内のミドルシュートに対するプレッシャーにより40%のシュートをゴール未到達(=得点の可能性ゼロ)にしているDFが素晴らしいですね。
枠外シュートやブロックされたシュートはセーブ率の集計に含みません
GKをデータで深掘り、としていますが、GKとDFの連携状況についてもGKの活躍のためには重要なポイントと思っています。
GKのセーブ率でPT分のビハインド3点を覆したこの試合ですが、「GKも含めてDF」という考え方からすれば、DFは中村匠選手のセーブ率が高いシュートを打たせて、中村匠選手はしっかりとセーブする、といったDF戦略全体による勝利といえるかもしれません。
OFに関するデータ
ブルーファルコンは枠外シュートが少ない
OF面ではこの枠内シュートに関するデータに表れているものが最大の勝因かもしれません。
フィールドシュートにおける枠外シュート数の比較
ブルーファルコン:1本
→バラスケス選手のディスタンス1本のみ。これもポスト直撃とギリギリ枠外となっている
ブレイヴキングス:6本
総シュート数はブレイヴキングスの方が6本も多いのに、枠内シュートの本数は同数となっています。
これはつまり、ブルーファルコンのOFは総シュート数に対する枠内シュートの数が多いということを示しています。
枠外シュートとなってしまうシーンはDFのブロックをかわしきれないままディスタンスシュートを打ったり、身体的な接触がある中でシュートを打った場合、またGKのポジショニングにより枠内にシュートが打てない場合など、様々なパターンが考えられます。
これは個々の能力や意識ももちろんそうですが、このレベルの対戦カードで枠内シュート数に差が出るというのはOFがしっかりとプレーをデザインして、DFを崩した上でシュートを打てていることがデータに表れていると捉えることができます。
両チームの「OFミスの質」の違い
リーグ最終戦ではブレイヴキングスの方がOFミスが6回多いという展開でしたが、プレーオフファイナルでは豊田合成ブルーファルコンのOFミス数9に対してブレイヴキングスのOFミス数は7とブレイヴキングスの方が2回少なくなっています。
この点はプレーオフファイナルに向けてOFのクオリティを修正してきたことが分かります。
このミスの内容を見ると、ブレイヴキングスはゲームプラン次第で勝てていた試合だったということが数値からも見て取れます。
速攻(リスタート含む)のOFミス比較
ブルーファルコンはリスタート以外の速攻について、リーグ最終戦と同様に1次速攻(ワンマン速攻)以外はセットプレーに移行しており、無理に速攻を仕掛けないことが功を奏して速攻でのミスはありません。
一方のブレイヴキングスは速攻9回中3回のOFミスをしています。
セットのOFミス比較
ブルーファルコンがセットOF37回中9回のOFミス、ブレイヴキングスがセットOFでは42回中4回のミスとなっています。
ブルーファルコンとしては意識的に速攻を仕掛けずセットプレーに専念している(と思われる)中、想定外にミスが多くなっていたのではないでしょうか。
一方でブレイヴキングスは1試合を通してセットプレーでのOFミス4回とセットプレーでのミス数を少なく抑えられていることが分かります。
速攻のミスをどう評価するか
ブレイヴキングスの速攻でのOFミス3回をどう評価するか、といったところが勝敗を分けるポイントの一つであったかなと思います。
速攻(リスタート含む)での得点数を比較すると、両チームとも3得点となっています。
しかし、ブレイヴキングスは9回の速攻OFで3点を取っているのに対し、ブルーファルコンは4回の速攻OFで3得点としています。
さらにブレイヴキングスの速攻でのOFミス3回について、そのミス直後のブルーファルコンOFはすべて得点しています。ミス後は戻りながらのDFとなり、DF要員との交代や本来のDFポジションにつくことができないケースも出てくる中でなかで相手のOFを受けるため、失点率も高くなります。
以上から速攻について、ブルーファルコンの方がリスクを冒さず、高いパフォーマンスで得点できていることがわかりますね。
OFミスというリスクを許容してどこまで速攻を仕掛けるか、というポイントですが、この試合のブレイヴキングスのセットOFの成功率は48.8%となっており、仮に速攻でミスしてしまったOF機会3回をセットOFに割り当てていれば、それだけで1点差を埋められるだけではなく、逆転できていた可能性もあります。
セットOFのミス率は速攻OFよりも低く抑えられていたことから、少なくともOFミスで終わる可能性を低くできていたのは間違いないでしょう。
この試合、ブルーファルコンのターンオーバーによる得点率は100%であったことから、無理に速攻を仕掛けずセットOFの割合を増やしていれば失点を減らすことも期待できました。
「極端な話」「試合が終わった後だから言えるタラレバの話」と思うかもしれませんが、実際にブルーファルコンはこの戦術を実践して結果を出しています。
では速攻を仕掛けることがよくないのかというとそうではなく、この試合のデータだけを見るとOFミスを減らすアプローチとしてセットOFの割合を増やす、というのは一つ手段といえるといった程度です。
これをトヨタ紡織レッドトルネードSAGAのように、速攻の精度を上げてガンガン速攻を仕掛けるといったアプローチをとることも、一つの手段です。
データをもとに課題を可視化することができますが、その課題をどういった手段で解決をするのかはそのチームの個性であり、様々な選択肢があります。
数的有利なシーンでのOF比較
この試合では豊田合成ブルーファルコンの退場が6回(失格1回含む)、トヨタ車体ブレイヴキングスの退場が4回と、白熱した展開で双方に数的有利なOFをする時間帯がありました。それぞれのOFが数的有利なシーンでどのようなスコアになっているか見てみましょう。
数的有利なシーンでのOFデータ比較
ブルーファルコン(OF機会6回)
得点:5
OFミス:1
ブレイヴキングス(OF機会7回)
得点:3
PT獲得:1
被セーブ:1
枠外シュート:2
ブルーファルコンはOFミスが1回あるものの、6回のOF機会で5得点と高いOF成功率になっています。
一方のブレイヴキングスとしては数的優位なシチュエーションで2本の枠外シュートとなっている点が痛い所でしょうか。
この2本は杉岡選手のサイドシュートと、岡元選手のポストシュートであり、GKと1対1のシチュエーションでの枠外シュートとなっています。このデータからも、中村匠選手のセービングが勝敗を分けるポイントに絡んできていることが分かります。