プレーオフ前哨戦を分析

トヨタ車体ブレイヴキングス

5月17日のトヨタ車体ブレイヴキングス 対 豊田合成ブルーファルコンの試合を分析しました。
プレーオフ直前、そして勝利したチームがレギュラーシーズン1位になるという、これ以上ないような緊張感のある試合でした。やや一方的な展開ではありましたが、JHL屈指のハイレベルな試合で楽しく観戦しながら分析することができました。

試合を分析してみてこの試合におけるブレイヴキングスの敗因となったのは退場を起因とした戦術の乱れOFミス数の多さにあると感じました。
ブレイヴキングスはフリースロー獲得数31と、気合十分といった様子でこの天王山に臨みましたが、ちょっと空回りした感は否めません。

ブレイヴキングスとしては事前に準備していたゲームプラン通りの展開ではなかったはずです。
むしろこの内容で4点差しかつけられていない、という点にブレイヴキングスの地力の強さが見られます。プレーオフでの再戦があった際に楽しめるよう、両チームの特徴について解説していきます。

フィールドゴール以外の得点データから見る両チームの差

ここでは敗因の一つである、退場を起因とした戦術の乱れについても解説していきます。
フィールドゴール以外では、ブレイヴキングスがPTで5得点となっており、ブルーファルコンがPT6得点とエンプティシュート3得点の合計9得点をフィールドシュート以外で得点しています。
これはブルーファルコンが全体得点の3分の1近くをPT・エンプティシュートで得点していることになるので、この試合の特徴的なデータになるかと思います。

ブレイヴキングスはこの試合「PTが多い≒退場者が多い、退場者が出ている間はGKを下げてエンプティ状態でOFするので、エンプティシュートを打たれるリスクが高くなる」という、負の連鎖から抜け出すことができずにいました。
※両チームともこの試合で7人攻撃は行っていなかったのでエンプティゴールによる失点のリスクがあるのは退場者がいるシーンのみになります。

ブレイヴキングスは6回の退場でエンプティシュートを4本打たれて3点の失点となっています。一方でブルーファルコンは3回の退場でエンプティシュートを1本も打たれていません。

退場時にGKを下げてOF人数を6人にしたとしても退場者が誰になるのかによって、OFもフルメンバーで攻めるという訳にはいきません。
OFの中心選手である吉野選手が退場した後にはOFミスが多くなっており、エンプティゴールによる失点につながっています。
一方ブルーファルコンは3回退場者を出した場面がありましたが、いずれもエンプティシュートを打たれていませんでした。
ここでは退場トラブルという想定しにくいシーンにおいて「いつものOFメンバーではない状態で攻める」準備の違いが数値として表れています。

ブルーファルコン ディエゴ選手の曲者っぷり

退場に関するデータを見ていたところ、ディエゴ選手の曲者といえる「いい意味でいやらしいデータ」を見つけたので紹介しておきます。
今シーズン、継続して高いシュート決定率を誇るブルーファルコンのディエゴ選手ですが、この試合の勝敗を分ける、ブレイヴキングスの退場数の多さに深くかかわっています。

個人スコアとしてカウントされることが珍しいデータとしてPT獲得数があります。
ディエゴ選手はこの試合でパスを受けてシュート動作を取ったプレーは5回あったのですが、そのうち3本がPT、残り2本が得点となっていました。
シュート動作さえ取れれば必ずPTを獲得するか得点しており、さらにPT獲得数3回のうち2回はブレイヴキングスの退場を誘っているという、なかなかの曲者っぷりを発揮しています。
この試合のブレイヴキングスの敗因の一つは退場者の多さにありますので、勝利の立役者といっても過言ではない働きをしていることがわかります。

フィールドシュートのデータ比較

セットOFの比較

フィールドシュートの比較では両チームともにセットOF17得点、速攻5得点とフィールドシュートによる得点数は全くの互角でした。
セットOFはブレイヴキングスがシュート25本中の17得点、ブルーファルコンがシュート31本中の17得点となっています。同じ得点数ではありますがブレイヴキングスはOFミス数が多いためシュート本数が少なくなっています。
このことから、シュートまで持ち込めればブレイヴキングスに勝機があるということになります。
ただ、ブルーファルコンがシュートを打たせないDFをしているからシュート数が少なくなっているので、OF戦術の改善が必須になります。

速攻OFの比較

速攻についてはブレイヴキングスがシュート8本中5得点、ブルーファルコンがシュート5本中5得点となっています。

ブルーファルコンの5得点はすべて1次速攻(ワンマン速攻)のみであり、ブルーファルコンは速攻で無理に押さず確実性の高いシーン以外はセットOFに移行しているという点がOFの大きな特徴です。

ブレイヴキングスのOFミスに関するデータ

勝敗を分けたもう一つの要因が、ブレイヴキングスのOFミス数の多さであるとしていましたので、ブレイヴキングスのOFミスに関するデータを解説します。

まずOFミス回数としては20回と非常に多くなっています。
OFミス20回の内訳としては速攻またはクイックスタートのミスが4回、残りの16回はセットOFにおけるミスとなっています。
全体のデータからシュートまでもっていければ精度が高いことが明らかになっているので、セットOFのミスの原因となっているポイントを修正してシュート数を増やすことができればまた別の展開が期待できそうです。

また20回のOFミスのうち前半のミスが7回、後半のミスが13回と後半の方が2倍近くの数のミスをしてしまっていることも特筆すべき傾向であるといえます。

ミスの後のOFの決定率

ミス後直後のOFデータ比較
ブレイヴキングス
前半でミス後のOF機会が14回
6得点4枠外4ミス

ブルーファルコン
前半でミス後のOF機会が20回
13得点(うち2本はエンプティ)1枠外1PT5ミス

ブルーファルコンのシュートエリア分布

ここまでで書いているフィールドシュート以外の得点の多さやOFミス数の多さはこのゲームにおける特徴的なデータであり、勝敗を分けるポイントであることは間違いありません。

しかし、そういった特異的なデータ以前にブルーファルコンのシュートエリア分布をみると、この試合はブルーファルコンのOFプラン通りDFを崩せているように見えます。

9m内に侵入して打っているシュート本数が多くなっており、特定のエリアに偏ることなく綺麗な分布になっています。ブレイヴキングスとしてはもう少し内側にDFを密集させて外からのシュートとできるようなDFシーンを増やしたいところです。

ブルーファルコが想定外であったのは決定率の高いLWからのシュートで得点できなかったことと、中央の位置以外のディスタンスシュートの決定率が低かったことでしょうか。

試合前半の分析

前半4点差で折り返し、最終的な点差も4点差となっているのでブルーファルコンは前半のリードを守り切った形で勝利しました。
このことから前半の差がそのままこの試合の両チームの差とも言えるので、丁寧に見ていきたいと思います。

前半の内容を見てみると、両チームの差は
・ディスタンスの得点数
・ミスの後のOFの決定率
にあるように見えます。

ディスタンスシュートによる得点数の差

セットプレーの9m外からシュートによる得点比較
ブレイヴキングス:シュート3本中1得点

ブルーファルコン:シュート6本中3得点

セットプレーのディスタンスシュートによる得点比較
ブレイヴキングス:シュート4本中2得点

ブルーファルコン:シュート10本中6得点

ブレイヴキングスOFとしてはブルーファルコンのGK中村選手に対して安易にディスタンスシュートを打てないという思いがあるのかもしれません。
実際にブレイヴキングスは9m外からほとんど得点できておらず、やはり9m外からの怖さがないからPVも空かず、バックプレイヤーからPVへのパスをカットされるシーンが見られました。

ブルーファルコンOFとしては、前半は特にLBのバラスケス選手がブレイヴキングスOFに捕まり、フリースローを取られてパスがつながらず思うように展開できていなかったのではと思います。(バラスケス選手はシュート3本中1得点)
RBの趙選手もシュート3本中3得点と得点率は高いものの、シュート本数自体を良く抑えられていました。

ミスの後のOFの決定率(前半のみ)

【前半】
ブレイヴキングス
前半でミス後のOF機会が5回
2得点2枠外1ミス

ブルーファルコン
前半でミス後のOF機会が7回
6得点(うち1本はエンプティ)1ミス

シチュエーション別データ
ポイントとなるシチュエーション別に集計をしました。
今回の試合では以下のデータが抽出できるようにフラグ設定をしています。
(1レコードに対して2つまで自由にフラグを設定できます。)
・ブレイヴキングスの1:5DFの成功率
・ブルーファルコンのCB別のOFデータ

ブルーファルコンのCB別のセットOFデータ分布

ブルーファルコンのセットOFでは古屋選手と田中大介選手というタイプの違う2人のCBがOFをコントロールしています。
それぞれのシュート種別、エリアごとのOFの特徴を分析してみました。

まず得点率としては古屋選手が9/14、田中大介選手が8/13とほぼ同じクオリティでセットOFをコントロールしていることがわかります。
それぞれのOFデータについて仕分けて分析してみました。

古屋選手がCBの場合のセットOFデータ

ディスタンス5本、ブレイクスルー4本、ピヴォット4本とフィニッシュとなるプレーの種類をバランスよく分散させて攻めているようです。
エリア×シュート種別のデータを見るとシュートを打つエリアがも偏りがなく、またディスタンスシュートも9m内に侵入して打っているプレーが多いため、ディスタンスシュートの決定率も高くなっていることがわかります。

田中大介選手がCBの場合のセットOFデータ

CBが田中大介選手のときは13回のOF機会のうち半分以上がディスタンスシュートで終わっており、ディスタンスシュートを軸に組み立てているように見受けられます。古屋選手と比較すると9m外からのディスタンスシュートが多くなっているのも特徴といえるでしょうか。

個人別分析

今回の試合ではブレイヴキングスから北詰選手、吉野選手、渡辺選手のデータを、ブルーファルコンからは小塩選手、趙選手、バラスケス選手、水町選手、原田選手のデータをピックアップして載せていきます。

ブレイヴキングス

ブレイヴキングス 北詰選手の個人別分析
ブレイヴキングス 吉野選手の個人別分析
ブレイヴキングス 渡辺選手の個人別分析

ブルーファルコン

ブルーファルコン 小塩選手の個人別分析
ブルーファルコン 趙選手の個人別分析
ブルーファルコン 水町選手の個人別分析
ブルーファルコン バラスケス選手の個人別分析
ブルーファルコン 原田選手の個人別分析

試合を通じてみてブルーファルコンは厚い選手層を活かしてメンバー交代を行い、速攻も無理に押さないし、セーブ率の高いGKを擁しているためDFも9m外まで頑張らなくていいし、最小限の労力で最大の効果を発揮するハンドボールをしている印象でした。OFデータを見てもバラつきがなくチームとしての一体感が数字に表れているように見えます。チームの統率がしっかりとれており、余裕のあるゲーム運びができていました。

対してブレイヴキングスはレギュラーシーズンで唯一白星を挙げられていない勝利への執念は十分に感じられましたが、ブルーファルコンと比べるとプロフェッショナルとしてプレーをコントロールできないシーンがありました。この試合ではそのコントロールできていないプレーが退場等につながる形で空回りしてしまっていた印象です。しかし何が何でも勝ちたいという気持ちを前面に出すことは3連覇中の王者に挑むチャレンジャーとしては必要な姿勢であることは間違いないので、良い形でプレーにつなぐことができれば、気持ちを前面に出すことはチームの勢いとなってブルーファルコンにとっての脅威になります。

この試合はブルーファルコンにとっては狙っていた以上の試合展開、ブレイヴキングスとしては不完全燃焼、といった試合内容だったでしょうか。

プレーオフの分析について

5/24より、いよいよJHL2023-2024シーズンのプレーオフが開幕します。今シーズンはとても見どころの多いシーズンだったので、4チームどこが優勝してもおかしくない、混戦必死の展開が予想されるので、とても楽しみにしています。
プレーオフは3日間連続で開催され、分析したデータ比較を文字起こししている間に次の試合が行われてしまいそうなので、入力でき次第、ひとまずデータだけアップしていこうかと思っています。