JHL2023-24 トヨタ紡織九州レッドトルネード佐賀 対 ジークスター東京 分析

試合分析

5月4日のトヨタ紡織九州レッドトルネード佐賀 対 ジークスター東京の試合を分析しました。

レッドトルネード佐賀はキーパーを前半・後半という時間単位で交代させていたり、極端なDFシステム、メンバーの変更を繰り返していたのが気になりましたね。これがもしプレーオフに向けて色々試していたのだとしたら、どんなデータを取っているのかが気になるなあ、、、などと想像しながら分析していました。この試合を踏まえて、両チームがプレーオフ1stステージで再戦する際にどのような試合展開になるのか、今から楽しみです。

両チームの差が顕著に表れていた前半15分時点のデータ

リーグ3位と4位のチームのという、実力の拮抗したチーム同士の勝負でしたが、前半15分時点で4対10と早い時間帯で点差が離れる展開となっていました。
序盤のゲーム展開はこの試合の一つのポイントになっていたかと思いますので、詳細に分析していきます。

前半15分時点のスタッツ
レッドトルネード佐賀の前半15分時点のOFデータを分析

前半15分時点でのOF成功率は20%(OF機会20回に対して4得点)となっておりこれは5回OFして1点取れるかどうか、といった程度なのでレッドトルネード佐賀にとって厳しい展開だったことが分かります。
20回のOF機会について、詳細な内訳は以下の通りになっています。
枠内シュート:9本
OFミス:7回
被ブロック:4回

OF機会のうち枠内シュートを打てたのは9回のみで、残りの11回のOF機会はOFミスによりボールを失っている、またはブロックによりシュートを阻まれています。

前半15分までのOFミスと被ブロックの割合を見てみると、下記の通り前半15分までの間にOFミスと被ブロック数が集中していることが分かります。
・前半15分までのOFミス7回・・・試合全体(17回)の41.2%
・前半15分までの被ブロック数4回・・・試合全体(9回)の44.4%

試合全体のスタッツ

試合を通じた両チームのOF成功率の違い

前半15分だけではなく試合全体を見てもOF決定率の違いが大きい(レッドトルネード佐賀37.9%、ジークスター52.5%)点について、詳細を見ていきます。

試合全体のOFデータで大きく差があるのはミス数とシュート種別ごとの決定率でした。それぞれについて詳細を見ていこうと思います。

レットルのミスの質から見る課題

試合を通じたミス数は17と、OF回数66回に対して25.8%でミスをする割合になっているので、ミス数が多めになっています。

ミスのシチュエーションを見てみると、そのうち速攻またはクイックスタートによるミスは4、セットOFによるミスは13となっていました。
このセットOFのミス数の多さが気になるポイントです。レッドトルネード佐賀はよく走るチームで、速攻・クイックスタートをどんどん仕掛けるチームのため、リスタートと速攻のミスが増える分には戦術上許容するリスク、と言えるかもしれません。しかしセットOFのミス数が多くなっている点についてはこの戦略上のリスクとは異なるため、原因の確認と対策が必要といえるかと思います。

ジークスターのミスの質から見る課題

一方、ジークスターのミスの特徴としては、相手チームのOFミス直後のOFでジークスターもミスをしてしまっている、という点が挙げられます。
この試合でのOFミス数は11本とレッドトルネード佐賀より少なくなっているのですが、そのうち3本のOFミスはレッドトルネード佐賀のOFミスの直後に発生しています。

これが何を指すのかというと、相手がOFミスでボールロストした直後は速攻の起点も高い位置であるため1次速攻のチャンスであり、通常の速攻よりも得点率が高くなります。このOF機会でOFミスをしてしまうことは高確率で得点できるチャンスのある「価値の高いOF機会」を失っているということになります。

また相手がシュートまでいけずにOF権を失ったタイミングなので、ここで得点することで確実に点差をつける/縮めることができる機会でもあります。
この機会をOFミスで失うということはさらに相手からの逆速攻を受けることにもなりますので、自身のチャンスを失うだけではなく相手チームに「価値の高いOF機会」を与えるということになります。
この貴重な機会について、3回もOFミスでボールロストしているのは非常にもったいない所です。

ちなみに、レッドトルネード佐賀のミスを見てみると、ミス数はジークスターよりも多いにもかかわらず相手のOFミス直後のミスは1本もありませんでした。

シュート種別から見る決定率の違い

次にシュート種別の決定率の違いを見ていきます。両チームの9m内、9m外のシュート本数と得点数、得点率の差を比較した結果が以下の通りです。

レッドトルネード佐賀
①9m外からのシュート:14本2得点(14.3%)
②9m内からのシュート(③以外):27本15得点(55.6%)
③角度の狭いウイングからのシュート:5本3得点(60%)

ジークスター
①9m外からのシュート:11本5得点(45.5%)
②9m内からのシュート(③以外):30本19得点(63.3%)
③角度の狭いウイングからのシュート:10本5得点(50%)

以上より9m外からのシュートについて得点率の差があることが分かります。


ここからレッドトルネード佐賀のディスタンスシュートのデータを見ると、速攻・セットOFのすべてで打ったディスタンスは25本、そのうち得点となったのは7本で28%の決定率となっています。これはディスタンスシュートとしては低い確率といえます。試合を見た印象としても、ディスタンスはことごとくDFにコースを制限されているか、ブロックされていました。レットトルネードの被ブロック数が9、ジークスターの被ブロック数が3という数値にも表れています。

特にレッドトルネード佐賀の得点源となるRBについてはかなり意識的に抑えられていた印象だったのですが、他のスペースを攻められているといった訳ではないんですよね。
選手別に見ると三重選手はシュート4本で1得点、梶山選手はシュート3本で1得点。RB二人で2点しか取れていないというのは厳しいかと思います。これだけRBが厳しいマークにあっている際にLB側やPVによる得点が増やせるといいのですが、この試合ではそれができていませんでした。
このあたりはジークスター東京のフィジカル面での優位性を活かしつつ、気持ちのこもったDFが結果に表れていたように思います。長身な選手をDF中央に揃えているというフィジカル面の差もありますが、打ち込まれても必ず手を挙げる意識、気合のこもったDFシーンが多くありました。

次にジークスターのディスタンスシュートを分析してきます。ここではセットプレーに限定してディスタンスシュートへの対応状況を見ていくと、以下のようなデータになっています。
・ディスタンスシュート全体の失点は8失点
・9m外のディスタンスシュートによる失点は4失点(シュート9本中4失点、得点率44.4%)
・9m内で打たれているディスタンスが4失点(シュート5本中4失点、得点率80%)

9m外からのディスタンスシュートはある程度防がれているのですが、9m内に侵入してキーパーとの近い距離でシュートを打てていることがわかります。レッドトルネード佐賀としては9mの失点数が多くなっているので、シュート前のプレーから、接触できずに9m内に侵入されている原因がどこにあるのかの分析が重要になりそうです。

詳細はじっくりと動画を見直した質的分析が必要ですが、信太選手のゲームメイクが要因だったように感じました。これまであまりなかった信太選手がCBで攻めるパターンが試合を通じてうまくはまり、DFに捕まらずテンポよくパス回しができていました。信太選手がDFをひきつけてアダム選手や元木選手をフリーにする、信太選手へのプレッシャーが弱まれば自ら決める、といった教科書通りのプレーを間違えずに実践するところにベテランらしさが光っていました。
信太選手についてCBとしての出場機会はあまりなかったように記憶していますが、ジークスターの一つのオプションとして十分通用するレベルのOFだったように感じました。この試合は信太選手に限らず、元木選手、甲斐選手といったベテラン選手が躍動していたのも個人的には見ごたえのあるポイントでした。

レットトルネード佐賀としては修正点が多く、敗戦ではあるものの収穫がありそうな試合になりました。ただこの試合、ジークスターは小山選手、東江選手とリーグを通じて出場時間の長かったCBが不在となり、信太選手がCBのポジションで長く出場していました。プレーオフでは復帰した東江選手の出場も考えられるので、この試合をどこまで参考にしていいか、難しい所ではあります。
相手チームに依らずとも、レットトルネード佐賀としてはOFにおいてリスクとして許容すべきではないようなケアレスミスを減らすこと、現状打たされているシュートをどのように改善(DFを崩して打つのか、別のエリアでフィニッシュとなるようなOFにするのか)することができるのかがプレーオフの勝敗を分けることになりそうです。

最後に、両チームの活躍していた選手の個人分析を載せておきます。

ジークスター東京 アダム選手
ジークスター 元木選手
レットトルネード佐賀 三重選手
レットトルネード佐賀 中田選手
レットトルネード佐賀 山口選手
レットトルネード佐賀 成田選手
レットトルネード佐賀 梶山選手