JHL2023-24 ジークスター東京 対 トヨタ自動車東日本レガロッソ 分析

試合分析

今回はジークスター東京とトヨタ自動車東日本レガロッソの試合を分析しました。
プレーオフに関わるチームを中心に分析する、としていたのにトヨタ自動車東日本のデータがサンプルとして興味深すぎて、今回の記事ではトヨタ自動車東日本レガロッソの分析ばかりになってしまいました、、、

ジークスター東京の分析にはあまり時間がかけられなかったので、最後に個人別のデータを公開します。
まずは全体のスタッツから。

全体のスタッツ

トヨタ自動車東日本レガロッソ分析

数字で見るDFの課題
セットDF

全体のスタッツを見ると、ジークスター東京のOF成功率が64.9%と非常に高くなっています。このOF成功率はそれだけレガロッソのDFが機能していなかったとも捉えることができます。

試合のデータから具体的なレガロッソのDFにおける課題を見つけていこうと思います。
分析ツールで自動生成できる情報をもとに、さらに詳細なデータを用意しました。セットDFに限定してデータを抽出し、9m以内のDF中央の2枚目・3枚目が守るエリア(下記図の赤い箇所)の失点内訳についてのデータです。セットDF全体では32本のシュートを打たれているのですが、そのうち24本が図の赤いエリア=DF中央の9m以内で打たれ、21失点しています。

以上のデータよりセットDFで打たれたシュートのうち80%がDF中央の9m以内で打たれ、打たれたシュートの87.5%が失点になった、ということが分かります。試合を見る中ではレガロッソのGKは関口選手を中心にビッグセーブを連発していたイメージですが、セットDFのみに限定するとセーブ率は低かったようです。

さらに詳細なデータとしてDF中央の9m以内で打たれたシュート種別の得点/シュート本数のデータは以下の通りです。カットイン、ピヴォット、DFをずらされた広い角度のウィングと、DFが崩されての失点が多くなっています。
ディスタンス   :1/1
カットイン    :5/7
ピヴォット    :9/9
角度の広いウイング:6/6
その他(スカイ) :0/1

さらにフリースロー獲得数について、試合終了時点でジークスターが14回、レガロッソが11回と試合を通じての獲得数は3回しか差はありませんでしたが、これはレガロッソが後半28分過ぎの1回のDFで3〜4回のフリースローを獲得して差を埋めており、ほとんどの時間帯でジークスター東京の半分程度の獲得数で推移していました。

そしてジークスター東京はこの試合で43本のフィールドシュートを打っていますが、全て枠内にシュートを打てており、枠外シュート0本、被ブロック数も0本となっています。これはDFのプレッシャーを受けずにシュートに行けていることが数字に表れていると言えます。

これらのデータを集めてみると、レガロッソのセットDFは「9m内を守れていないのに、相手OFにプレッシャーも与えられていない」ということが分かります。レガロッソのDFもジークスターOFに決して接触していないわけではないのですが、接触しながらフリースローなどでプレーを切ることができていなかったことがこの結果に繋がったと考えられます。

セットDFと速攻DFのセーブ率の違い

あまりにもデータ入力時に試合を見た際のレガロッソGKの印象とセットDF時のセーブ率に差があったので気になってジークスターOFが速攻の際の9m内中央エリアの得点/シュート本数のデータを見てみたところ、以下のようになっていました。

ピヴォット :0/2
ワンマン速攻:2/7

セットDFにおける9m内中央エリアのセーブ率は12.5%であるのに対し、速攻DF時には同エリアで打たれたシュートのセーブ率が77.8%と非常に高くなっています。セットDFのセーブ率が低くなっている点についてDFがセオリー通り守れておらず、GKにとっても想定外のシュートが多くなっているといった可能性も考えられます。

数字で見るOFの課題

OFミス数の多さ
OFデータの考え方

OF回数68回に対してOFミス(OF権を失うようなミスやファウルの数)が17回となっており、これは25%の確率でミスやファウルによりボールロストするという計算になります。

このOFのデータを見ると、リーグ戦で安定して勝利する、また上位チームに勝利するのは難しい数字、という印象です。ハンドボールは両チームほぼ同数となるオフェンス機会の中でいかに点差をつけていくかといった競技なので、当たり前のことですがオフェンス権が相手に渡るようなミスやファウルをするということはその限られたOF機会を得点の可能性がない形で消費することになります。
OFミスとは少し性質が異なりますが、枠外シュート数、シュートをDFにブロックされる被ブロック数も得点の可能性のないプレーとしてほとんどミスと同様の扱いといえます。

これも当たり前のことですが枠内にシュートを打たないと得点になる可能性はゼロです。OFミス数、枠外シュート数、被ブロック数といった得点になる可能性がない、可能性の低いプレーをどれだけ減らし、「OF回数に対して枠内シュートで終えた回数を増やすことができるか」というのが勝敗を分ける大きなポイントになるといえます。(もちろん、枠内にシュートを打てばなんでもよい、ということではありません。)

レガロッソOFのデータ分析

以上を踏まえて今回のレガロッソOFのデータでは、OF回数68回のうち17回がミスまたはファウルでOF権を失っており、シュートまで到達したOF機会は51回となります。そのうち得点の可能性がない枠外シュート、被ブロック数を除いた枠内シュートが39本となっています。この枠内シュートを相手キーパーがどれ位セーブしてくるかによって得点数が決まります。

39本の枠内シュートに対してキーバーのセーブ率が25%~35%と見積もったとして、25~29点程度の得点が見込まれるといったデータになります。

相手GKのセーブ率によって上振れ・下振れが考えられますが、安定して勝利していくためには得点のベースとなる枠内シュートの本数が39本というのは心許ない数値であることがわかるかと思います。

これが上位のチームとの対戦になればなるほど、相手DFのレベルが高くなり枠内シュートまで持っていく条件も厳しくなります。さらに上位チームのGKのセーブ率は下位に比べ高くなることが想定されるため、枠内シュートが得点につながる可能性もより低くなります。

参考:プレーオフ出場圏内のチームの持つOF力

参考までに、現在プレーオフ圏内にある上位4チーム以上のOF力の指標として、今年のJHLの5/1時点のデータをもとに、4位以上のチーム同士の試合における得点平均を計算してみたところ、ちょうど得点平均が30点でした。JHL国内最高峰のDF・GKを相手にして30得点をとれるチームがプレーオフ出場圏内に残ることができるということがわかります。

このことからプレーオフ出場圏内となる4位以上に割って入っていくためのOF面としてのアプローチとしてはどんなチーム相手でも、30点以上取れるようなOFが必要であると考えられます。

そのためのOF面でのアプローチのしかたはチーム特性により様々な方法が考えられます。シーズンを通した基本方針だけではなく試合単位の相手チームに合わせた戦略などもあるでしょう。しかし、現状のボールロスト数、枠外シュート数、被ブロック数を減らすというのは比較的OF側でのコントロールが効きやすくかつ定量的に評価できる、どんなチームにも共通で必要となるアプローチのしかたなのかな、と思います。

まとめ:ただ試合を見るだけではわからないこと

28対37の9点差という最終的な点差だけを見ると、僅差ではないものの、とてつもない大敗という感じの印象ではないかもしれません。しかし内容を見るともっと点差がついてもおかしくない試合展開でした。
もしジークスターの速攻OFのシュート率が平均的であれば、間違いなく40点ゲームかつ10点差以上という試合結果になっていたでしょう。
速攻のシュート率が低くなっていたのもDFによるものではなく最後の砦であるGKの個人技により防いでいたに過ぎません。GKの活躍によりゲームバランスが崩壊しなかったことは評価しつつ、チームとしてまずは実際の点差以上に課題のある試合であったと認識することが必要です。

こういった最終的な点差だったり、ただ試合を見ているなかでは気付かない(今回でいうと、もっとレガロッソDFは守れている印象でしたが、実際にはセットオフェンスを全然守れていないことが明らかになりました)試合の要素を可視化するのが、試合分析の面白いところです。

チーム運営の視点からは、試合の流れの中で感じる印象はスタッフ個人・選手個人によっても異なるものであり、当然それぞれが抱える課題感についても全員が同じということはまずありえません。
この主観的で不揃いな情報をもとにチームが同じ方向に向かっていくことは至難の業です。
そこでデータという客観的な数値をチーム内で共有し、同じ情報をもとにスタッフ・選手が課題解決のためのアプローチをとることができるということが、データを活用における最大のパフォーマンスだと考えています。

ジークスター東京分析

際立ったOF成功率の高さ

ジークスター東京のOF成功率が64.9%と非常に高くなっています。セットOFのシュート本数が21本なのですが、そのうちPVによるシュートが10本と約半数を占めています。これはジークスター東京OFがしっかりとDFを崩せていることが数字に表れているといえるでしょう。

そのことを裏付けているもう一つのデータとして、ジークスター東京の選手が放ったシュートの枠内シュートの割合の数があります。これはレガロッソDFの分析の際にも触れていますが、なんとこの試合でジークスター東京は枠外シュート、シュートブロックともに0本となっています。選手個々の能力が高いことももちろんですが、DFを躱してシュートを打てていることが表れているようにも思われます。前節の琉球コラソン戦では枠外シュート、シュートブロック数が合わせて9本となっていましたので、かなり改善されています。

個人分析

週末に実施予定のほかの試合分析に向けた準備であったり、分析ツールに関する記事の投稿を予定しているためジークスター東京の分析に関しては時間を取れなさそうです。
その代わりといっては何ですが、ジークスター東京のデータとして、分析ツールによって自動生成される個人別の分析結果のうち、選手の特徴がシュートコースに出ているようなデータをピックアップして共有していきたいと思います。
実はこの選手別×シーン別×シュートコース、選手別×エリア別×シュートコースという分析ができるといった点はこの分析ツールの大きな特徴でもあります。苦労して分析設定をしているスタッツでもあるので、これからも公開していこうと思います。

宮本辰弥選手の個人分析

ジークスター東京の背番号24宮本選手のシュートの内訳は以下の通りです。
GK目線として対戦したくないウイング、という印象でした。
流し上のコースは1本目のシュートだったと記憶しているのですが、このシュートがかなり綺麗に決まっており、2本目以降もGKは流し上を意識せざるを得ない中でうまく駆け引きをしていました。
非常に身体能力の高い選手でもあり、あの流し上のコースをセーブするには大きく動くか位置取りを工夫する必要があるのですが、こちらが仕掛けると空いたところ打たれるんですよね、、、
こういった、GKを動かすシュートを1種類でも持っていることは、GKとの駆け引きをシューター優位に進めるためには重要なことかと思います。

玉川裕康選手の個人分析

以前から玉川選手のシュートコースには偏りがありそうだな、と思ってたのでシュート本数が多かったこの試合のデータをピックアップしてみました。
この試合では玉川選手のシュート本数が多くなっていたのでデータを見てみると、予想通り流し上のコースが多くなっています。高身長を生かしたシュートコースなので簡単にセーブできるわけではないと思いますが、GKとしては駆け引きのいいネタになりそうです。

部井久アダム勇樹選手の個人分析

シュート分布をみると遠目のコースに打つ傾向があるようにも見えます。
この1試合だけの傾向でデータのサンプル数が少なく、コースの打ち分けはシチュエーションや相手DFの状況によっても左右されるものでもあるので、有意なデータといえるかは難しい所ですが、参考にはなるかもしれません。

これらの個人別データも1試合単位ではなくシーズン単位の集計ができるとより戦略的に活用できるデータになるため、分析ツールを進化させるため、データの蓄積と活用をテーマにアイデアを溜めています。